大阪市立桜宮高2年のバスケットボール部主将の男子生徒が顧問教諭(47)から体罰を受けて自殺した問題で、元プロ野球選手の桑田真澄さん(44)がNHKや朝日新聞などのインタビューで語った「体罰否定論」に多くの共感が寄せられている。
「小中学校時代は練習で毎日殴られていた」と話す桑田さんは、その経験を踏まえて「体罰に愛情を感じたことはない」「体罰は安易な指導方法」と訴える。ネットには「非常に論理的な体罰批判」「一流選手の言葉は重みがある」などのコメントが相次いでいる。
「体罰の背景は指導者の勝利至上主義」
大阪府出身の桑田さんはPL学園時代に甲子園大会で2度優勝し、巨人入団後は通算173勝を挙げた。2008年の現役引退後は大学院でスポーツ科学を学び、2013年1月からは東京大学野球部の特別コーチに就任。精神論によるスポーツ指導の問題点などに関する講演活動も行っている。
体罰が引き金となった今回の自殺問題に関し、桑田さんは2013年1月11日のNHKインタビューでまず「よく体罰は愛情だと言いますが僕は愛情だと感じることはなかった」と強調した。
その上で、体罰は手っ取り早い安易な指導法であり、「いろんな角度から説明する指導方法のほうが難しい」「僕は体罰には反対です」と明言した。時代に合わせてビデオを使うなどの指導法に変わっていかなくてはならない、とも主張した。
体罰を生む背景として、「指導者は優勝しないと周りに示しがつかないとか、首になるとか」の理由から「勝利至上主義になっている」と指摘する。「プロはそれでいいが、アマチュアは育成主義でないとダメだと思っています」と語った。
また「往々にして昔ながらの指導をしている人が結果を出しやすいのがスポーツ界」と認めたうえで、体罰をなくすため「勇気を持って今の時代にあった指導法を実践する指導者が1人でも多く出てきてもらいたい」と訴えた。
「服従で師弟が結びつく時代は終わった」
朝日新聞が1月12日付朝刊に掲載したインタビュー記事では、「体罰がなぜいけないのか」について説明している。
大学院生時代の2009年、桑田さんがプロ野球選手と東京六大学の野球部員550人を対象に行ったアンケートでは「体罰は必要」「ときとして必要」という回答が83%に達したという。
こうした実態を踏まえながらも、「指導者や先輩の暴力で選手生命を失うかもしれないのに、それでもいいのか」「殴られるのがいやで野球をやめた仲間を何人も見てきた。スポーツ界にとって大きな損失だ」と反論する。
加えて、「絶対に仕返しされない」という上下関係の中で起きるのが体罰だとし、「監督が采配ミスして選手に殴られますか」「体罰は暴力で子供を脅して思い通りに動かそうとする卑怯な行為」と強調した。
「体罰を受けた子は、どうしたら殴られないで済むのかという思考に陥ります。それでは子供の自立心が育たず、自分でプレーの判断ができません。殴ってうまくなるなら誰もがプロになります。私は、体罰を受けなかった高校時代に一番成長しました」
記事の最後で桑田さんは「アマチュアスポーツにおいて『服従』で師弟が結びつく時代は終わりました」と断言した。
体罰による自殺問題はテレビや新聞で連日大きく取り上げていることもあって、桑田さんの「体罰否定論」への反響は大きく、11日からツイッターやネットには共感のコメントなどが多く投稿されている。
「体罰を肯定する指導者のうち、桑田氏の主張に論理的に反論できる人はどの程度いるのか」「一流のスポーツ選手によるこのような発言が持つ意味は大きい」「経験を踏まえた冷静な正論」「早く指導者の道を歩んでいただきたい」
大半はこうした賛同のコメントで、「優れたコーチング技術はスポーツも会社も同じ。コーチや上司は『統治』ではなく『支援』に徹するべき。もちろん教える側は『叱る』や『体罰』より遥かに大変です」といった意見もあった。
その一方、少数ながらも
「体罰そのものではなく、体罰の仕方を間違った教師を問題にすべき。可能性の芽を摘まない体罰もある」「今回のはただの暴力だが、成長のための負荷やストレスは子供にとって必要で正しい体罰もある」
といった意見もあった。