円の下落が止まらない。2013年1月11日の東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル89円35銭と、2010年6月29日以来、約2年半ぶりの円安ドル高水準。もう、90円は目前だ。
この日は、対ユーロでも一時1ユーロ118円58銭と、11年5月5日以来1年8か月ぶりの円安ユーロ高となった。
株価や金は上昇中
「いまの政府には、85円でも『円高』という感覚なのでしょう」――。みずほコーポレート銀行の国際為替部マーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏はそう話す。
安倍首相が「大胆な金融緩和」をぶち上げてからというもの、円は一本調子で下落。「予想より速いペース」で、1ドル90円を目前に迫った。「年明けに一時(円高に)調整されるかな、という機会があったのですが、すぐ円安に戻りました。それだけ政府のスタンスが強いとの表れで、おそらく80円台後半は維持したいのでしょう」とみている。
2013年1月11日の円相場は、17時時点で前日17時に比べて74銭の円安ドル高の1ドル89円02~03銭近辺で推移。同日発表された貿易統計で、12年11月の経常収支と12月上中旬の貿易収支が赤字だったことや、政府の「緊急経済対策」が発表され、安倍首相が記者会見で「デフレと円高からの脱却に、政府・日銀の連携が不可欠」などと述べたことが伝わり、「円売りドル買い」が加速した。
円安はいまのところ、株価を引き上げる「よい円安」が続いている。同日の東京株式市場は日経平均株価が続伸。一時、前日比177円79銭高の1万830円43銭まで上昇して、年初来高値を更新した。取引時間中に1万800円台に乗せるのは1年10か月ぶりのこと。終値は148円93銭高の1万801円57銭で引けた。
前日の米国での株高と、一段と進んだ円安を好感した「買い相場」を押し上げた。トヨタ自動車やホンダなどの自動車株、シャープ、パナソニックの電機株など、円高で苦しんできた輸出関連企業の頬もだいぶ緩んできた。
商船三井などの海運株などが買われ、金融緩和で恩恵を受けやすいとされる銀行株も軒並み上昇した。
一方、金の小売価格も、じつに32年4か月ぶりの高値をつけた。金地金などを販売する田中貴金属工業によると、1月11日の小売価格は前日比109円高い、1グラムあたり5067円。金の国際価格は高値圏にある。加えて、ここ数年の円高基調で日本は海外ほど金価格が上昇した「実感」が乏しかった。それが約2年半ぶりの円安水準で、円建ての国内価格が大幅に押し上げられたというわけだ。
ガソリン「小幅な上昇傾向はしばらく続く」
ガソリンの店頭価格も、5週連続で値上がりしている。資源エネルギー庁が2013年1月9日発表したレギュラーガソリンの店頭価格(7日現在、全国平均)は、前週に比べて1リットルあたり0.8円高い148.8円となった。
寒さが厳しくなるなか、灯油も値上げが進み、18リットルあたり28円高の1720円。6週連続の上昇だ。
原油価格は中国や欧州の景気回復への期待が高まり、需要が伸びるとの思惑から買いが膨らんでいる。それに円安が加わって、原油の輸入価格に影響した。調査したみずほ総合研究所は、「小幅な上昇傾向はしばらく続く」とみている。
円安が続けば、輸入品の値段は上がっていく。最大の問題は、電気料金だろう。原発が停止したままの状態で、火力発電に必要な原油や天然ガスはすべて輸入に頼っている。つまり、円安は電気料金の上昇に直結する。
前出の唐鎌大輔氏は、「円安も下がりすぎればエネルギーコストの上昇で企業活動に支障をきたします。問題はその分岐点ですが2008年のとき、原油価格が1バレル100ドル、円相場が1ドル100円でした。これが目安になるかもしれません」と話す。
いずれもしても、円安もいいことばかりではないというわけだ。