今、野球界で最も注目されている山本浩二WBC監督が母校の法大野球部から「名誉毀損」で訴えられそうだというのだから穏やかではない。2013年1月12日の法大野球部優勝祝賀会を前に、トラブルが表面化。騒然となるのは間違いないだろう。
現体制の刷新を求めるOB会と、現監督らが衝突
事の発端は野球部の現体制を変える動きから。人心一新を求める野球部OB会執行部と継続を望む現・野球部首脳とのせめぎ合いで、もう1年以上も前からトラブルになっている。それがエスカレートし、昨年12月下旬、内容証明付き書簡が主要OB相手に送られ、名誉毀損に対し謝罪がなければ法的措置を執る、と通告してきたのである。水面下での争いが一気に公となった。
書簡の通知人は金光興二監督と野球部長、先輩理事の3名。名指しされたのはOB会の五明公男会長と3名の副会長。副会長のひとりが山本浩二氏なのである。同氏は野球部の大御所であり、全国区のビッグネーム。同じく副会長の山中正竹氏は元投手で東京六大学リーグ最多記録(48勝)保持者。
「金光監督らは常軌を逸している。告訴も辞さないという態度は理解できない」
OBのほとんどはあきれている。田淵幸一、江本孟紀といった有名OBもただ首をひねるばかりだという。
OB会執行部は現体制が「野球部を私物化している」として声を上げた。金光監督は昨年で監督10年と長いうえに、成績は良くないし、選手指導でも問題がある、ということから区切りをつけて交代を求めた。野球部長も7年を越える長期であるだけでなく、OB会を無視してトラブルを生んでいる、としている。
先輩理事というのは各校1人ずつで六大学連盟の運営に協力する立場。大学はその人事に関与せず、OB会が連盟に推薦して決まる。現在の法大先輩理事は正規な手続きをとらない形で居座っており、連盟は再三に渡って正常化するようOB会に伝えている。
この争いでは人間関係が入り組み、こじれている。五明会長は監督時代に金光監督を主将にし、江川卓投手を擁して4連覇するなど黄金時代を築いた人物だ。また金光監督にとって大学の大先輩であり、郷里広島の先輩でもある。泥仕合とはまさにこのことである。
現体制にしてみれば、昨年秋のリーグ戦で優勝していることが強気の態度となっているのだろう。大学が交代を決められないのはその点にあるとも思える。
山本監督が矢面に立たされる可能性も
気の毒なのは山本氏。今回の騒動に直接タッチしているわけではなく、著名人ということで標的にされた格好だ。OB会が大学側に提言書などいろいろな文書を出しており、そこに副会長・山本浩二氏の名前がある。そこを突かれた格好だが、とんだトバッチリを受けたといえる。
監督を交代問題から始まったこの騒ぎ。ここまで事態をこじらせたのは五明会長の力不足が最大の原因と見る向きが多い。法大教授でもあり、野球部に対して大きな影響力を持っているはずなのに、調整、説明、指導などを発揮できていない、というわけだ。教え子の金光監督については交代を1年以上も前から公言し、勇退を勧告しているのに相手にされない。監督の最終人事を決める大学総長からも全く回答を得られない。会長として「この騒動の責任は重い」と見るOBは少なくない。
山本氏はそんな状態の中で法的措置をほのめかされている。野球部のため、後輩選手のため、として告訴になれば受けて立つ構えだという。会長のミスに対して矢面に立つことになるかも知れない。WBCの戦いが本格化しようという時期だけに、このもう一つの戦いの余波がどうなるか予測は難しい。
(スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)