大阪市立桜宮高校2年の男子バスケットボール部主将が2012年12月下旬、同部顧問の男性教諭(47)から体罰を受けた翌日に自殺した問題は、危機管理の能力を著しく欠いた教育委員会と学校現場の実態を改めて浮き彫りにしている。
市教委や学校側は、生徒が自殺する1年以上前にバスケ部で顧問による体罰が横行しているとの情報を受けながら、ずさんな調査で問題を放置。また市教委は会見の場で、自殺前日の体罰の回数などについて顧問の言い分のみに沿った発表を行い、遺族側は不信感を募らせている。
1年前に市の公益通報窓口に情報
「桜宮高のバスケ部では体格のいい男性教師による体罰が日常的に行われている」「バスケ部以外の運動部の生徒たちもその様子に怯えている」――。
市教委などによると、バスケ部顧問の体罰に関するこうした情報は、11年9月上旬に市の公益通報窓口に匿名電話で寄せられた。市は市教委に調査を回し、市教委は桜宮高校に体罰の有無について事実確認するよう調査を命じたという。
ただ、市教委がこのとき同校の前校長(当時校長)に指示したのは、顧問への聞き取り調査のみ。前校長は10月中旬に聞き取りを行い、バスケ部顧問は体罰そのものを即座に否定した。前校長はわずか15分間の顧問への調査をもとに「体罰の存在は認められない」と市教委に回答し、市教委もこれを鵜呑みにしていた。
同校では同じ11年にバレー部顧問による部員への体罰が発覚しており、本来ならバスケ部をめぐる情報についても丁寧な調査が必要だったはず。ところが、新聞報道などによると、前校長は「バレー部の問題が表面化した際、体罰を受けた生徒は名乗り出るよう呼びかけていたので体罰情報が本当だとは思わなかった」と説明。当時、生徒側からバスケ部の体罰についての訴えが無かったことを、見過ごした理由としている。市教委側は「情報が具体的でなかったうえ、バレー部問題の処分が出た直後だったので『体罰はもうないだろう』との判断から(バスケ部情報では)生徒への聞き取りを指示しなかった」という。
さらに前校長は翌12年春に転任する際、このときのバスケ部の体罰に絡む情報について現校長に引継ぎを行わなかった。悲劇を防ぐきっかけになったかもしれない情報は生かされることはなかった。
遺族「学校・市教委の対応は後手後手」
危機管理能力に欠如した市教委、学校側のありようは、自殺した生徒の両親への対応や記者会見の場などにも現れている。
市教委と学校側は自殺を公表した8日の会見などで、自殺前日の12年12月22日に生徒が顧問から受けた体罰について「両頬をはさむようにして平手で数回たたいた」と話していた。顧問の証言をもとにした一方的なものだが、実は市教委と学校側はすでに会見の時点では、生徒が自殺前日に「きょうもかなり殴られた。30~40発たたかれた」と母親に話していたことを遺族から聞いて知っているのだ。
双方の主張の隔たりを知りながら、なぜ市教委は顧問の証言のみを公表したのか。新聞報道によると、遺族感情を逆なでする行為はこれにとどまらず、同校の校長やバスケ部顧問らは生徒の自殺後約1週間、通夜や葬儀でも両親に謝罪していなかった。市教委は8日の会見などで「顧問は通夜の晩に謝罪した」と発表していたが、実際はバスケ部員らへのアンケートの結果、顧問による日常的な体罰を認めざるを得ないと判断した後の12月30日だったという。
また11年9月に市にバスケ部顧問の体罰情報が寄せられていたことついても、これまで遺族側に一切の説明はないという。「学校や教育委員会の対応は後手後手の印象しかない。不信感を募らせている」。自殺した生徒の父親はマスコミの取材に対しそう答えている。
教育委員会主導の教育行政に批判的な立場を取る大阪市の橋下徹市長は1月10日、「学校や市教委は意識が甘すぎる」「緊急事態の対応は市教委に任せられない」とした上で、今回の体罰問題に関する調査チームを作る方針を表明した。市長直轄で100人態勢で全容解明に当たるという。
「顧問が自殺前日に30~40発も殴っていたことが事実なら、暴行や傷害罪に当たる許された行為」と語り、ずさんな調査結果によって体罰を止められなかった公益通報制度の見直しについても言及している。