吉本興業が2013年春の新入社員採用から、大卒者だけでなく中学や高校卒業者も対象に加える。中卒者の就職が厳しさを増している近年、大手企業としては画期的な試みだ。
将来は有名番組の大物プロデューサー、という道も開かれるようだ。
「若年層の社員や芸人の多様性も必要」
「仕事がいちばん面白い」
こんなキャッチコピーの広告が、2013年1月10日の主要紙朝刊に掲載された。吉本興業の企業広告で、朝日新聞には見開きサイズで載っている。内容で目を引くのが「この春から、中学卒業・高校卒業の若い社員を採用する計画です」の文字だ。
同社ウェブサイトでは、中・高卒者採用の意図について説明している。「人材の多様性こそが、新しい時代に次の『面白いこと』を生みだす原動力になる確信があった」というのだ。同社が抱えるタレントやお笑い芸人、社員がキャリアと同時に年齢を重ねていく一方で、若年層の社員や芸人の多様性も必要ではないかとも考えたのだという。
募集要項を見ると、応募資格は「2012年3月中学卒業以上の若い方」としか書かれていない。だが職種は、タレントのマネジャーからプロデューサー、ディレクター、カメラマンや大道具といった技術スタッフ、総務や経理など事務職と幅広い。いずれも専門的な技能や経験が求められる業務内容と考えられるが、先輩社員による指導を通して現場で覚えていくスタイルをとるようだ。例えばプロデューサーの場合は、アシスタントからスタートして経験を積ませる。「学校での勉強とはまた違った『実学』が学べる場」と説明する。
雇用形態は「転勤あり」の正社員か「転勤なし」の契約社員いずれかで、中卒者と高卒者の間に基本給の額の差はあるが諸手当や賞与も支給される。正真正銘の「学歴不問」というわけだ。
ツイッターでは、朝刊の「大型広告」が話題になるとともに「(応募が)殺到しそう」「スケール大きい」「チャレンジしてみちゃおうか」などとおおむね好評だった。
中卒求人数は20年間で10万人から1500人へ激減
中卒の求職者は1960年代の高度成長期に「金の卵」ともてはやされた。その後、進学率が高まったこともあって数自体は減ったが、今日でも中卒で職を求める人はいる。だが昨今は不況による求人減が続き、就職は決して楽ではない。厚生労働省が発表している「高校・中学新卒者の求人・求職・内定状況」をみると、中卒者の就職決定率は、1980年代後半はほぼ100%だったのに対して、2010年には70%を切るまで低下した。求人数も、90年代初頭は10万人近くに達したが、ここ2、3年は1500人前後と激減している。
就職情報サイトで「学歴不問」となっている企業や職種を探した。飲食店の店員や運転手、土木作業員といったものが多く、営業職も見かけた。だが吉本のような芸能関係の業種は見つからなかった。
吉本は過去にもユニークな採用で話題になった。2011年には、全国47都道府県それぞれの地で勤務する「エリア社員」を募集。各地でタレントとともに地域活性化に努める役割を担うもので、この時も多くの応募があったという。