日本政府が国策として進める2013年冬の調査捕鯨が南極海で始まった。ここ数年、日本の調査捕鯨は、反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害に遭って赤字に陥るなどしており、今年3月までの調査の行方が注目されている。
シー・シェパードの妨害で今冬の調査捕鯨が計画通り進まない場合、国内の鯨肉流通がさらに縮小し、鯨肉高騰で販売が伸び悩む悪循環に陥る可能性がある。
加盟国の権利だが、「擬似商業捕鯨」の批判
日本の調査捕鯨は例年12月から翌年3月に南極海で行う冬(南半球は夏)の調査と、6月から9月に北西太平洋で行う夏の調査の2回がある。日本は国際捕鯨委員会(IWC)の決定に基づき、1987年に商業捕鯨から撤退したが、同年から水産庁所管の財団法人「日本鯨類研究所(鯨研)」が調査捕鯨を開始した。調査費は年間45億~50億円かかり、鯨研が解体後の鯨肉を販売して回収している。
鯨肉販売額は、かつて50億~60億円あったが、近年は販売不振で赤字に転落。2011年は反捕鯨団体の妨害で調査捕鯨を中断したため、11億3306億円の赤字となり、農林水産省が赤字補てんと妨害対策のため東日本大震災の2011年度復興予算に約23億円を計上し、批判を浴びた。IWCは調査捕鯨を「加盟国の権利」とし、鯨肉販売も認めているが、実際に行っているのは日本だけだ。シー・シェパードはじめ環境保護団体は「擬似商業捕鯨」と批判している。
関係者によると、シー・シェパードの今冬の妨害活動は「ゼロ容認作戦」と呼ばれ、船団とヘリコプターを含む「過去最大規模」の陣容となっている。今回は日本の気象庁が観測船として使っていた中古船舶を購入し、あえて妨害活動に参加させるなど、日本政府を挑発する姿勢を強めている。
不漁の場合、国内でも見直し論が出そう
日本の調査捕鯨をめぐっては、米国の裁判所が昨年12月18日、シー・シェパードとポール・ワトソン代表に妨害を禁じる仮処分命令を出した。仮処分命令は南極海で操業する日本の船団を攻撃したり、公海上で500ヤード(約460メートル)以内に近づくことを禁じている。しかし、シー・シェパードは「日本の船団が南極海に到着すれば、私たちを見つけることになる」とのコメントを発表し、命令に従わない考えを示している。このため水産庁は例年以上に警戒感を強めている。
昨年の南極海の調査捕鯨では、1月4日、日本の捕鯨船「第3勇新丸」(720トン)がシー・シェパードの小型ボート2隻から、船首付近を横切られたり、浮きのついたロープを投げ込まれるなどの妨害を受けた。同8日にはシー・シェパードを支持する豪州の市民団体の男3人が、水産庁の監視船に乗り込むなどしたほか、2月には第3勇新丸がシー・シェパードから塗料が入った瓶を投げつけられるなどの妨害を受けた。
鯨研がクジラを捕獲・解体後、国内市場に供給した鯨肉は、2002年以降、年間3000トン台~5000トン台で推移したが、2011年以降は反捕鯨団体の妨害で2000トン台に縮小した経緯がある。これに対して、日本国内の鯨肉の在庫量は2004年以降、3000トン台~5000トン台と増加傾向にあり、近年は年間の供給量を上回る勢いだ。
供給過剰となった背景には、鯨肉の流通量が1960~70年代の商業捕鯨当時に比べて縮小したため市場で割高となり、店頭から鯨肉が消えたことがある。今冬の調査捕鯨がシー・シェパードの妨害で2011年に続いて不漁となった場合、在庫が縮小して鯨肉がさらに割高となり、例年以上の販売不振に陥る可能性もある。その場合、国内でも調査捕鯨の見直し論議が高まるのは必至だ。