政権交代で2013年の農業政策はどこへ向かうのか。民主党政権が看板政策として推進した農業者の戸別所得補償制度は、政権交代後も名称を変更しながら存続し、2014年度に抜本見直しを行うことになった。
林芳正新農相は2012年末の記者会見で「大事なことは現場が混乱しないことだ。その上で名称をどうするか、制度をどうするか検討に着手したい」と述べた。
農水省は13年度予算で前年度並み約6900億円要求
戸別所得補償制度は販売価格が生産コストを下回っている農作物を生産する農家に、政府が差額分を支給する制度。民主党政権がコメ農家を対象に2010年度にモデル事業を始め、本格実施となった2011年度から麦、大豆、テンサイなど畑作物にも対象を広げた。農水省は2013年度予算で前年度並みの約6900億円を要求している。
自民党は戸別所得補償では対象外の野菜や果樹など、農地を保有する幅広い農家を支援する「多面的機能直接支払法」を制定する方針を政権公約で示している。林農相は「農家のみなさんの状況も勘案しながら、その方向でやっていくことになると思う」と述べ、戸別所得補償制度の抜本見直しと合わせ、来夏以降の2014年度予算編成で取り組む考えを示した。
「今夏の参院選をにらみ、政権公約通りの安全運転を行った」
言い換えれば、戸別所得補償制度は存続する見通しになったわけだ。
そこで、農業分野で今年の最大の焦点は、農業団体が反対する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題になる。これについて林農相は、「我々の政権公約は聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対としている。公約をベースにきっちり考えていかないとならない」と述べ、慎重に対応する考えを示した。林農相は農水族議員ではなく、TPPに柔軟な政治家とみられているが、農相就任に当たっては「今夏の参院選をにらみ、政権公約通りの安全運転を行った」(農水省幹部)と見られている。
林農相はTPP関係国との事前協議についても、「情報開示が不十分。もう少し情報開示をして具体像を明らかにし、国民の議論に供すべきだ」と、民主党政権時代の農相と同様の発言をする一方、安倍首相が目指す日米同盟の強化との絡みでは、「米国との関係は安全保障から最も大事だが、TPPとは直接関係することではないと思っている。安全保障の分野はきちんとやるべきだが、TPPは経済なので、政権公約の考え方で対応する」と述べるなど、慎重な発言に終始している。
JAグループ政治団体の支援を受けた政治家160人余り
TPPについて経済産業省、外務省などは早期の交渉参加を目指し、安倍首相の訪米時の日米首脳会談で前向きなメッセージを発するよう水面下で調整している。これに対して、政権に返り咲いた自民党内では、先の衆院選でJAグループの政治団体の支援を受けた政治家が160人余り当選しており、TPPに反対する勢力は全体の半数以上を占める。林農相の一連の発言は、党内で多数派を占めるTPP反対の農水族議員らに配慮したものに他ならない。
一方で、経団連はじめ経済界はTPP交渉への早期参加を求めており、政府・与党内で綱引きが強まるのは必至だ。日本がTPP交渉参加を決断するとすれば、3月もしくは5月がリミットとみられており、果たして国内の農業関係者の反発を覚悟でTPP交渉参加を決断できるか。夏の参院選をにらみ、政府・与党内の調整は安倍政権最初の試練になりそうだ。