政権交代で政策決定の仕組みがガラリと変わってきた。マクロ経済政策の司令塔として民主党政権では休眠状態だった経済財政諮問会議が再開されるのと並んで自公政権復活を象徴するのが自民党税制調査会の復権だ。
「今ある政府税調はなくなる」。自民党税調の野田毅会長は12月19日の党税調幹部会の終了後、記者団にそう宣言した。関係閣僚らで構成する民主党政権の政府税調を抜本的に見直し、税制改正の主導権を党税調に戻す考えを示したものだ。
党税調が財務省主税局と二人三脚で「大綱」を
民主党は2009年の政権交代後、「内閣への政策決定の一元化」を掲げて党税調を廃止し、税制改正を政府税調で行うとした。「自民党時代は議論の過程が不透明で、国民の理解や納得を得にくい」という理由だったが、決定に関与できないことには民主党内でも不満が高まり、2011年に野田佳彦内閣になってから民主党税調が復活した経緯がある。
旧自民党政権時代は党税調が大きな権限を持ち、学者・有識者中心の政府税調は中長期の理念的な大枠の議論が中心で、実際の年度、年度の具体的な税制改正は党税調が財務省主税局と二人三脚で「大綱」を決め、政府税調が追認する形をとっていた。特に、かつての故・山中貞則氏に代表される「税制のプロ」のベテラン議員が絶大な力を持ち、「インナー」と呼ばれる少数の幹部が密かに集まって実質的に事を決めてきた。
民主党は、まさにそうした不透明さを正そうと拳を振り上げたのだった。しかし、「個々の企業・事業者の懐に直結する税金は政治そのもの」といわれるように、特に特定業界に直接かかわる租税特別措置の取り扱いなどは「平場の議論で公明正大に決める、とはなかなかいかない」(財務省筋)。いわば「必要悪」として自民党税調が機能してきた面がある。
大物政治家が「悪役」を引き受けて与党内をまとめないと…
また、国民に不人気の増税をする際は、税のプロとして一定の権威がある大物政治家が「悪役」を引き受けて与党内をまとめないと話が進まない実態があり、消費税導入時の山中氏はもちろん、政府税調で決めるとしていた民主党政権でも藤井裕久氏が党税調会長として最後は消費税引き上げの党議決定に導いたのは記憶に新しいところ。自民党の政権復帰で税制改正論議も、基本的に昔に戻ることになった。
予算編成は、1月中に2012年度補正予算案と2013年度の本予算案を一緒に閣議決定する方向で、税制論議もその前、1月中旬にまとめなければならない。具体的な当面の懸案は2014年4月からの消費税増税に向けた低所得者対策など「社会保障と税の一体改革関」連法の自民、公明、民主3党合意での積み残し項目だ。
低所得者対策では、民主党政権が税控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」を掲げていたが、自公は連立政権合意で、食品など生活必需品の税率を据え置く軽減税率の導入検討を打ち出した。
食品でも非課税・課税の線引きが難しい
軽減税率は食料品などの税率を5%などに据え置くもので、負担軽減が見えやすいが、食品でもスーパーの買い物と外食で非課税・課税が分かれる国があるなど、品目の線引きが難しいし、軽減の範囲を広げれば税収が大幅に減る。軽減税率導入時期でも、公明は8%引き上げ段階からを主張するのに対し、自民党内では「軽減税率は消費税が10%以上になってからで十分」(党税調幹部)との考えが根強い。
富裕層の課税強化策も3党合意に盛られたが、民主党政権が所得税の最高税率40%を45%に上げる方針だったのに対し、自民党には反対が根強い。一方、公明党は50%まで引き上げるべきだとの立場で、意見集約は容易でない。
消費税増税の際の駆け込み需要と反動減を抑えるための自動車取得税・重量税の軽減や、住宅ローン減税拡充なども大きな焦点だが、財務省は「減税恒久化はバラマキ」と牽制する。
利害対立、党派間の意見の違いをどう調整していくか、自民党税調の「裁き」が注目される。党税調は「『族議員』の集まりではなく、(各省の要求を抑え、まとめる)嫌われ者になるのが役割だ」(野田会長)といっても、長期政権時代のかつての党税調は「族議員の声にしばしば押され、露骨な利益誘導を許すこともあった」(財務省OB)だけに、透明性をどこまで確保し、説明責任をいかに果たすかが課題になる。