韓国で、ウォン高による国内経済の悪化が懸念されている。自動車や電機などの輸出産業が経済を支えてきた韓国にとって、ウォン高は輸出産業の業績悪化、さらには雇用や消費の低迷につながる。
そのウォン高の原因を、韓国メディアは「安倍リスク」と呼び、警戒感を強めている。
半年間で110ウォンの急上昇
ウォン高の背景は、欧米日の金融緩和政策や韓国国債の格上げ、先進国に比べて高い韓国の金利水準――があるとされるが、韓国の中央日報(2012年12月20日付)はその原因を、「米国経済に対する期待感は回復したが、欧州経済は依然として底。そこに『安倍リスク』が重なった」と指摘している。
「安倍リスク」とは、日本の安倍晋三首相が大胆な金融緩和策を打ち出し、円安・株高誘導を進めていること。なかでも韓国メディアは、安倍首相が衆院選前に言ったとされる「日本銀行が輪転機を回し、無制限にお金を印刷する」というセリフをことさら強調し報じている。日本政府の「露骨」な円安誘導が気に入らないらしい。
円安はすなわちウォン高であり、韓国経済の柱である輸出産業の危機を意味する。衆院選(12年12月16日)での自民党圧勝を受けた、12月17日のソウル外国為替市場はウォン高が進んだ。円で買ったドルを売ってウォンを買う、円売りクロス取引が増えて、ウォンはドルに対して、前営業日(12月15日)に比べて2.10ウォン高・ドル安の1ドル1072.50ウォンとなった。
ウォン相場は12年6月初めの1ドル1180ウォン台から、最近は1070ウォン台へと5か月で約110ウォンも急上昇。2013年1月4日の東京外国為替市場は1ドル1063.50ウォンと、1070ウォンを割り込み、年末よりさらにウォン高が進んだ。
韓国の証券会社などはウォン高傾向が続くと予測。13年1月3日付の中央日報は、「今年はウォン高・ドル安が進み、為替レートが年平均1ドル1050ウォン前後になる見通し」と報じ、一部では「年内に1ドル1000ウォンを切る」との見方もある。
韓国政府は為替防衛に取り組む姿勢を表明してはいるものの、「それでもリーマン・ショック時と比べて、まだウォンは安い。まだまだ上がる可能性があるということです」(第一生命経済研究所の主任エコノミスト、西濱徹氏)とみている。
「財閥系企業はドライな経営判断をする」
一方、円相場は2012年8月末に対ドルで78.3円だったが、日本銀行の追加緩和と安倍政権の誕生もあって、2013年1月4日には87円台半ばまで円安が進んだ。
急激なウォン高と円安は、韓国の輸出産業の競争力を急激に弱めている。海外では韓国の輸出品価格は高くなり、日本の輸出品価格は安くなるのだから、世界市場で日本企業と競争する韓国の自動車や電機、鉄鋼などの輸出企業は、ウォンと円の為替動向に戦々恐々としているだろう。
なかでも、「けん引役」の自動車業界は11月に米国で現代自動車グループが販売したクルマの燃費の水増し表示が発覚。現代自動車もその事実を認めているが、米国では燃費のよさを売りに急速にシェアを伸ばしてきただけに、ウォン高との「ダブルパンチ」だ。
前出の第一生命経済研究所の西濱徹氏は、「韓国の失業率は数字のうえでは低いですが、このままウォン高が続けば、輸出産業の雇用にも影響がでてくるでしょうね。もともと自殺者が多い国ですから、数字に現れない実態面が気になるところではあります。今はまだないですが、財閥系企業はドライな経営判断をするので、生産拠点をいつ(国外へ)移すか、わかりません」と話している。