尖閣諸島が行政区域内にある沖縄県石垣市の子どもたちは、学校の授業で尖閣や領土問題をどう教わるのか――。市教育委員会や教師らの取材から分かったのは、これまでは国内の他地域の学校と比べて特別な学習はしていなかったという事実だった。
しかし市内のある小学校では2012年秋、毎年実施している「平和教育」の題材に尖閣問題を取り上げ、日中関係の改善と平和の大切さを考える契機にした。中学の公民の授業でも13年には参考教材を作成する予定があるなど、より深い理解を進める動きが少しずつ出始めている。
反日デモは納得できないが「戦争だけはダメ」
「これが、子どもたちが書いた作文です」
石垣市立登野城(とのしろ)小学校の宮良永秀校長は、記者の前に何枚もの原稿用紙を差し出した。6年生の国語では、「平和について考える」という授業がある。これまでは太平洋戦争末期の沖縄戦を通して、個々の生徒が平和の尊さを学んでいたが、2012年は違った。
ちょうど授業が行われる時期の9月に尖閣諸島が国有化され、その後に中国の反日デモが吹き荒れた。そこで、「尖閣問題」について子どもたちに調べさせ、そのうえで日中双方が関係を改善して平和を維持するためにどうすればいいかを作文にまとめさせたという。
作文の1枚1枚を読むと、子どもなりに今回の問題の背景や、尖閣の歴史をていねいに調べて書かれていた。暴力的な反日デモには納得できない半面、誰もが「戦争だけはダメ」と主張し、日中間で横たわっている問題をどうすれば解決できるのか、必死に模索している様子が伝わってきた。
同校の生徒が「尖閣は日本の領土」と学ぶのは、3年生以降の社会科の授業だ。日本地図を見ながら自分たちが住む石垣市について学び、学年が進むと今度はアジアの地図を使って近隣諸国と日本とのかかわりを勉強する。そこで石垣島の場所、さらには尖閣との位置関係を把握し、自然と「尖閣は石垣市の一部」だと認識するのだ。
一方で宮良校長は、「だからといって、尖閣について多くの時間を割いて詳しく学習するわけではありません」と説明する。普段からことさら「尖閣は私たちのものだ」と教え込むこともない。その点は別の地域に住む同学年の子どもたちと変わらないだろう。
だが、今年は「平和教育」で尖閣問題を扱ったことで、「子どもたちの間で隣国とどうかかわっていくか、平和をどう維持するかという関心が高まったのは間違いありません」と宮良校長。作文は授業で紹介され、それをもとに生徒たちが平和を守るための意見を出し合った。解がすぐに見つかるテーマではないことは分かっている。それでも、「国が違ってもお互いが理解を深め、交流を進める必要があります」と強調する。