王者に欠ける強烈な「個性」
―― トヨタの課題はなんでしょうか。
杉本 ひと言でいえば、ブームをつくれるクルマがないことです。
―― ハイブリッド(HV)カーの代表格である「プリウス」が売れていますが。
杉本 たしかに「プリウス」は売れていますし、HVでは小型車の「AQUA」も好調です。しかし、経営を大きく転換できるほどの、強烈な「個性」には至りませんでした。それは収益性が低かったためです。もちろん、円高の影響があることは否定しません。プリウスは日本で生産しているので、海外で売れても利益があまり出ませんでした。ブームをつくれそうで、つくれなかったのです。
厳しい見方かもしれませんが、トヨタにはそれほど大きな期待がかかっているという表れでもあります。
―― ブームをつくれるクルマとは、どんなクルマなのでしょう。
杉本 たとえば、90年代に一世を風靡したホンダの「オデッセイ」は、ホンダの危機的状況を立て直しました。いまではめずらしくありませんが、当時ワンボックスタイプの乗用車は「こんなに(車両が)大きく、1台300万円もするクルマが売れるの」、といわれたほどです。ところが、それが爆発的に売れました。
日産の小型SUV、「ROGUE(ローグ)」(2007年9月北米発売)もその一つでしょう。当初は欧州で火がつきましたが、それが北米でも人気となり、さらに国内でも「キモかわいい」と評判になってヒットしました。小型SUVの先がけ的な存在といえます。
―― そのクラスには、トヨタも「RAV4」があります。
杉本 初代RAV4は日本でいう「5ナンバー」サイズに収まるコンパクトなSUVだったのですが、北米市場ではモデルチェンジのたびにボディサイズが大きくなり、2代目以降は日本の「3ナンバー」サイズになってしまいました。
いまでは小型SUVというカテゴリーが認知されたことで、RAV4も欧州全域や北米、中国・東南アジアなど世界200か国以上で販売する世界戦略車として販売を伸ばしていますが、「ローグ」にあたるクラスでは出遅れ感が否めません。
いわば、日産は小型SUVという「すき間」を見つけ、これが的中したわけです。残念ながら、トヨタにはそういったエポックメイキングなクルマがないんです。
杉本 浩一(シニアアナリスト)
すぎもと・こういち 京都大学を卒業後、1994年に野村総合研究所に入社。自動車部品、米国自動車、自動車各セクターを野村證券金融経済研究所、米国野村證券などで担当する。その後2006年にメリルリンチ日本証券の自動車担当のディレクター・シニアアナリストとして勤務。2011年5月にBNPパリバ証券入社。自動車アナリストの経験は通算17年を超える。
投資情報のInstitutional Investors誌ランキングでは、自動車部品部門で1999年と2000年に1位。自動車部門2011年4位。