旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は、タイ・バンコクに国際チャーター便を運航する航空会社を設立した。タイ政府の認可を得たうえで、2013年夏をめどに初便を就航する計画だ。成長著しいアジアで急拡大しつつある旅行需要を取り込もうとの狙いで、航空事業参入に踏み切った。
中型機2機をリースで保有
新会社は「アジアパシフィックエアラインズ」で、資本金は5億4000万バーツ(約14億円)。HISは本体とタイの現地法人で計88%を出資する。
当面は中型機2機をリースで保有し、日本と中国やタイなどアジア諸国を結ぶ便をはじめ、アジア各地の主要都市を相互につなぐ便も運航する予定だ。また、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシアとサウジアラビアなど中東圏を結ぶ便の運航も計画している。開始から5年後をめどに、年間売上高3億ドル(約250億円)を目指す。
HISがあえて国際チャーター便を運航する会社を設立した背景には、「航空市場は将来、日本の10倍に拡大する」(沢田秀雄HIS会長)と見込むアジアで、事業強化に向けた強力な手段を手にしたいからにほかならない。チャーター便を活用したツアーは通常、旅行会社が航空会社から飛行機を1機借り受け、特定の地域に飛ばすもので、最近は日本の旅行大手による活用も増えている。チャーター便なら旅行会社にとっては座席が十分に確保できるうえ、一定数の乗客さえ集められれば利益も上げやすいためだ。
特定シーズンの需要増に対応
チャーター便を手掛ける会社を自ら運営すれば、航空会社に運航を委託する必要はなく、旅行代金を低く抑えられる可能性がある。最近は、格安航空会社(LCC)のアジアでの急成長ぶりに象徴されるように、アジア各地でのツアー代金の価格競争も激化している。旅行会社が自社でチャーター便を柔軟に活用することができれば、価格面の競争力は強まることになる。
また、定期便とは異なり、チャーター便の場合は、行楽シーズンなど乗客が多い繁忙期だけ運航させることも可能で、需要のないオフシーズンに運航しないですめばメリットは大きい。実際、HISは、日本便は日本の行楽シーズンである秋や年末年始、中国便は中国の旅行需要が高まる「国慶節」(中国の建国記念日)前後、イスラム地域便はメッカ巡礼のシーズンなど、地域ごとに特定のシーズンに絞って運航することを計画している。
ただチャーター便による航空事業はHISにとっては未知数の分野だ。既にアジアでは約20か国で拠点を築いているHISだが、今後、いかにチャーター便の効果を旅行事業全体の強化につなげられるか、アジアへの熱い視線を同じようにもっている国内旅行各社も注目している。