造船大手の川崎重工業は、国内主力拠点の坂出工場(香川県)の従業員の約2割にあたる180人を、国内の他工場のほか、ブラジルの造船会社に派遣する方針を固めた。
約100人が、ブラジルで造船所を立ち上げてドリルシップ(資源採掘船)を建造するための「指導員」の役割を担うが、じつに約2万キロの、南半球の異国への「転勤」になる。
ブラジルでの新規事業を立ち上げる、チャレンジ
川崎重工業はブラジルで石油や天然ガスのドリルシップを建造するため、同国の造船会社、エスタレーロ・エンセアーダ・ド・パラグワス(EEP)に約30億円を出資すると、2012年5月に発表した。EEPはブラジル国営石油会社のペトロブラス向けに6隻のドリルシップの受注をすでに内定していて、2014年から建造する。
同社はEEPと合弁会社を設立し、ブラジル・バイア州に約900億円を投じて敷地面積160万平方メートルの大型造船所を建設。ここに坂出工場に勤める約100人を、2015年までに送り込む考えだ。
具体的な異動の時期や条件はまだ決まっていない。同社は、「たしかに100人もの従業員が海外に移ることはめずらしいかもしれません。ただ、これは国内事業の縮小や現地での人手を手当てすることが目的ではありません。ブラジルでの新規事業を立ち上げる、チャレンジであり、現地での造船業を拡大し、発展させるためです」と説明する。
ブラジルではドリルシップを建造するノウハウが不足していて、「それを支援して、指導的な役割を果たしてもらいます」という。
川崎重工は、中国にも2か所(南通市、大連市)に造船所をもっている。しかし、中国は現地雇用でまかなっていて、日本人は幹部らがそれぞれ10人程度が派遣されているだけ。「生産工は(中国から)日本に来てもらい、1年ほど技術を学んでもらっています。その後、戻ってから現地指導にも当たっています。ブラジルは距離的なこともあり、そのようなことができない事情もあります」と話す。
同社では、コンテナ船や鉄鉱石や石炭を輸送するばら積み船などの汎用船の建造を中国で、またドリルシップはブラジルと、世界で船を造り分けていくことも考えているようだ。