「もう毎日新聞にはしゃべらない」「しょうもない質問ばっかり」――。日本維新の会代表代行の橋下徹・大阪市長が2012年12月16日の衆院選の投開票日以降、マスコミにかみつき、怒り続けている。
いつものことといえばそうかもしれないが、今回は特に激しい。首相指名に関する記事の言葉遣いを巡って毎日新聞に激怒しただけでなく、投開票日にはテレビ番組内でNHKアナらに「しょうもない質問ばっかり」と言い放っていた。衆院で54議席を獲得して維新が第三党に躍り出た今、なぜ橋下氏はこれほど怒っているのか。
「毎日は『撤回』という言葉の意味を分かっていない」
「これだけ自民・公明に国民の期待が寄せられた以上、これはボクの個人的な考えですけど(自民党の)安倍さんでいいと思います」。
投開票日の夜、「首相指名選挙で維新は誰に投票するのか」とテレビ番組で問われた橋下氏は「これはボクの個人的な意見ですが」と断った上で、安倍氏に投票する意向を示した。 一方、維新代表の石原慎太郎氏は別のテレビ番組で「どの政党でも党首を首相指名に挙げるんじゃないですか。それが政党の沽券だと思いますよ」と語り、安倍氏への投票に異を唱えた。翌17日に2人による電話協議の結果、首相指名選挙では党として石原代表に投票するという方針が決まったという。
こうした経過を巡って、毎日新聞が18日付朝刊で
「首相選挙、橋下氏『安倍氏』撤回、維新は石原氏投票、『独自野党』」アピール空回り」という見出しの記事を掲載したことから、橋下氏の怒りに火が点いた。
「毎日は『撤回』という言葉の使い方も分かっていない。確定的に党として決めたことを変えたのなら『撤回』でもいいが、協議以前の途中段階の個人的な意見を言っているのに…」
「それでも『撤回、撤回』と言うのなら、もう毎日新聞には途中経過を話しません。確定するまで話しません」
橋下氏は同日の囲み会見で毎日新聞にこういった後、続いて「そういえば朝日も書いていた。どうなんです?」と噛み付いた。朝日新聞は「撤回」という言葉は使用しなかったものの、首相指名に関する石原氏と橋下氏の「不協和音」を問題視する記事を掲載していたからだ。
「今後は、きちんと報じるところにだけ途中経過を電話でコソコソ言います」。
最後は淡々とした表情ながら、怒りを押し殺すかのように話した。
「しょうもない質問しないでください」
この怒りの会見は19日午前のワイドショーなどが大きく取り上げ、フジテレビ系列の「とくダネ!」では一連の経緯をフリップを使って詳しく報じた。
メーンキャスターの小倉智昭氏は「これまでは橋下さんの相手は週刊誌でしたが今度は新聞になったんですね」と述べた。ゲストコメンテーターのデーブ・スペクター氏は「メディアは『撤回』というインパクトのある言葉を使うことで、ブレた印象を与えたかったのでは」と指摘した上で、「2人の意見が違うことをオープンにして話し合うことは、密室での協議と違って逆に分かりやすくていいこと。新聞はちょっと言葉が飛躍した感じがありますね」と橋下氏を擁護した。
とはいえ、「撤回」という言葉をめぐって橋下氏はなぜこんなに怒り、取材拒否をもチラつかせるのか。維新の運営に関して、東京と大阪の「二元体制」の問題点や旧太陽の党との主導権争いが取りざたされる中、橋下氏が示すメディアへの怒りは、石原氏との関係に神経を尖らせていることの証しなのか。
「そんなしょうもない漠然とした質問しないでください」「(質問の回答は)維新の会のホームページを読んでください。しっかり書いてあります」。
橋下氏の苛立ちや怒りは、実は投開票日の16日から始まり、NHKの選挙特番ではアナウンサーの「今後、日本の政治をどう変えていくのか」「橋下さんは何を目指しているのか」といった問いに硬い表情で対応した。
テレビ東京の選挙番組では、池上彰キャスターによる「維新の候補者が急ごしらえで資質に問題はなかったのか」の問い掛けに対し、顔を一瞬ゆがめて「じゃあ批判するだったらこの短期間でどうやってやるのか教えてくださいよ」「大変さについて何も知らずにお気楽に批判しますが」と回答していた。
ネット上では、橋下氏のこうした対応を巡って擁護の声も一部にあるものの、大半は厳しい批判意見だった。