日本古来の伝統芸能「雅楽」を演奏したら、日本音楽著作権協会(JASRAC)から著作権料を求められた――。雅楽演奏家の男性がツイッター上でこんな投稿をした。千年前の作品に使用料が発生するのか、と驚いた様子だ。
法律に照らし合わせても、著作権の保護期間の対象外なのは明らか。演奏家本人が、そのてん末を語った。
「著作権フリーでも書類提出してもらいます」
雅楽演奏家の岩佐堅志さんは2012年12月12日、ツイッターに「JASRACから電話がかかってきた」として、その内容を書いた。9月に兵庫県西宮市で開催した公演に関して、著作権使用料を申告するように言われたという。13日のツイートでは、JASRACからの連絡が今回で3回目だったと明かしている。
岩佐さん本人が、J-CASTニュースの電話取材に応じた。JASRACを名乗る若い男性から12月12日に電話があり、西宮の公演について「著作権使用料の申告はされましたか」と聞かれたという。過去2回、同様の問い合わせがあった際には「雅楽に著作権はありませんよ」と答えて収まったが、今回は違った。相手は「たとえ著作権フリーでも書類は提出してもらいます」「演奏した曲を教えてほしい」と食い下がる。しかも電話口では「ががく」を「がらく」と言い間違えており、岩佐さんは不信感をもったようだ。再三「雅楽に著作権料は発生しない」と説明を続け、最終的に相手は「今後は(書類を)出すように」と言い残して電話を切ったという。岩佐さんは「本当にJASRACの担当者なのか分かりませんが、ちょっと驚きました」と苦笑いだ。
著作権法第51条では、著作権の保護期間は原則として著作者の死後50年継続するとある。無名または変名の著作物の場合は同第52条で、その著作物の公表後50年と定められている。だが雅楽の場合、宮内庁のウェブサイトには「ほぼ10世紀に完成し」とある。千年の歴史がある雅楽は、古典の演目であればどう考えても保護期間を過ぎている。
岩佐さんはツイッターで、「他の雅楽の人は電話掛かってこないのかなあ?」とぼやいていた。そこで都内にある日本雅樂會に問い合わせた。1962年以来、国立劇場などで毎年雅楽の演奏会を開いており、「文部大臣奨励賞」を受賞したこともある団体だ。「JASRACから著作権料の支払いを求められたことはあるか」との質問に、「(電話が)かかってきたことはありません」と笑った。
「JASRACから謝罪の電話がありました」
著作権を管理する側は、雅楽をどうとらえているのか。文化庁に取材すると、「一般論として」と前置きしたうえで、古来より伝わる作品であれば著作権保護期間から外れているとする。一方、場合によってはオリジナルの作品を一部編曲した「新曲」が演奏されたのではないか、と考えることもある。例えば公演用として特別に曲にアレンジが加えられれば、古典作品とは「別物」と扱われるわけだ。管理担当者が実際に演奏会に足を運んで見聞きしたわけではないので、古典か新作かは区別できない。そのために岩佐さんに問い合わせが入った可能性はある。
だが岩佐さんは、「西宮の演奏会での演目は、すべて古典。JASRACを名乗る男性からの電話の際も、伝統作品をアレンジした『新曲』が世に出ているが、私は『古典こそ雅楽』というポリシーがあるので(編曲された作品は)演奏していないと説明しました」と話した。
JASRACには、同団体が管理している作品をネット上で検索できるシステムがある。これを使って、岩佐さんの西宮公演での演目を調べてみたが、JASRACへの「信託状況」は消滅しているか、該当データが見つからないかのいずれかとなった。こうなると岩佐さんが指摘したとおり、演目はすべて古典作品ということが考えられる。
J-CASTニュースはJASRACに、今回の件で見解を求めるため電話取材を試みた。広報担当者は、岩佐さんの件についてインターネット上で話題になっていることを把握している様子で、「詳細に関しては現在、内部で調査中です。詳細が判明したら明らかにいたします」と話すにとどまった。
13日夕方になって、岩佐さんがJ-CASTニュースに「JASRACから謝罪の電話がありました」と明かしてきた。「行き違いがあったようです。私も、特に怒っているわけではありません」。