16日(2012年12月)に総選挙の投開票がある。どうも政権交代になりそうで、本コラム名「民主党ウォッチ」も名称変更が必要かもしれない。これまで、民主党が、脱官僚から脱・脱官僚になったこと、シロアリ退治しないと消費税増税しないといいながら退治せずに消費税増税、しかもマニフェストに書いていないことはやらないと言いながらウソをついたことなどを書いてきた。
筆者は民主党が健全な左派政党として政権運営をすることを密かに期待していた。特に金融政策だ。欧州の左派政党は、雇用確保のために金融政策を活用するように主張する。「欧州社会党」(ヨーロッパの社会民主主義政党の集まり)は、雇用確保のために欧州中央銀行の政策変更を要求している。また、「欧州左翼党」(ヨーロッパの共産党などの集まり)は、金融政策と財政政策が協調して雇用を確保するために、欧州中央銀行を民主的に管理することを求めている。そして、欧州中央銀行の役割として、物価の安定のみならず、雇用の確保も必要とすべきという。
物価の安定と雇用の確保
さらに、米国ではFRB(連邦準備制度)の責務として、物価の安定とともに雇用の確保も入っている。米国の大統領選では雇用や失業は、常に大きな争点である。また、FRBは12日、「インフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において、米失業率が6.5%程度で安定するまで」金融緩和する方針をあきらかにした。
要するに、世界の中央銀行は、物価の安定だけが責任ではなく、物価と裏腹の関係にある雇用についても事実上の責任を負っているのだ。物価だけをいい、雇用を口にしない日銀とは大違いである。
自民・みんなからお株奪われた民主
経済学の世界でも、短期的には失業率とインフレ率の間に逆相関関係(フィリップス曲線)があり、犠牲率の概念が広く共有されている。つまり、犠牲率とは、インフレ率を低下させるためには、どの程度の失業率が上昇するかということであるが、これ以上下げられない下限の失業率より現実の失業率が高ければ、インフレ率を少し高めて失業率を低下させられる。
かつて筆者は、民主党の勉強会において連合の古賀伸明会長に金融政策で雇用の確保ができることを話したことがある。同氏はかなり驚いて興味を示していたが、いつの間にか立ち消えになった。実のところ、民主党が欧州左派政党のように金融政策を雇用政策の柱として位置づけることを望んでいた。
今回の総選挙では、本来左派政党が主張すべき金融政策について、安倍自民や渡辺みんなから声が出て、民主党などの左派政党はそれを否定する側になっている。欧州では、まったく逆で左派政党から言い出すが、合理的な政策なので右派政党も取り入れているのが実情だ。
自民やみんなからお株を奪われた民主党。これでは総選挙で苦戦するのもやむを得ないだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。