シャープが、米半導体大手クアルコムから最大で約99億円の出資を受け入れることになった。新型パネルを共同開発する業務提携も締結。資本提携で今年3月に合意した台湾・鴻海精密工業からの出資受け入れの具体化協議が長期化するなか、経営再建への一手と位置づける。
ただ、クアルコムとの提携はシャープ支援という意味では力不足が否めず、市場からは体質強化に向けた抜本策が求められている。
営業黒字などの条件付き
クアルコムからの出資は2段階に分かれる。2012年12月27日に第1弾として約49億円を受け入れる。残る約50億円の払い込みは来年3月29日を予定するが、シャープの業績など以下の条件が付く。
(1)シャープが今年度下半期(2012年10月~2013年3月)に営業損益で黒字、(2)13年3月末時点で純資産1000億円、現預金1250億円を確保、(3)新型パネルの製品仕様の確立、(4)研究開発に必要な資源・体制確保――の4点。
シャープは13年3月期に過去最悪の最終赤字(4500億円)を見込み経営再建中であるだけに、クアルコムとしてもかなり慎重になっているようだ。第2弾の出資が完了すれば、クアルコムはシャープ株の5%程度を保有し、実質的な筆頭株主となる。
シャープは、出資第2段の条件の一つともなっている次世代パネルについて、クアルコムと共同開発を始める。新型パネルは「次世代MEMS(メムス)」と呼ばれる。クアルコムが開発した、部材が少なく低コストのパネル「MEMS」を進化させるもので、省エネ・高精細が特徴のシャープの次世代液晶パネル「IGZO(イグゾー)」の技術を活用する。
「次世代MEMS」は成長を続けるスマートフォンやタブレット端末向けを想定。クアルコムとシャープの技術を組み合わせることで、高品質で生産コストの安いパネルを可能にする狙いだ。
財務体質の改善にはほど遠い
シャープの主力工場のうち、テレビ用大型液晶パネルの堺工場(堺市)は、鴻海との共同運営に切り替えたことで操業が安定。米アップルのスマホ「iPhone5」向けのパネルを生産する亀山第1工場(三重県亀山市)も現在はフル稼働。こうした中、タブレットやパソコン、スマホ向けの中小型パネルを生産する亀山第2工場(三重県亀山市)の稼働率アップが課題。クアルコムとの提携が進展すれば、共同開発した新型パネルを生産できる可能性もある。
しかし、シャープ再建という観点から見ると、今回の提携ですべてを解決するわけではない。まず出資額は最大99億円にとどまり、財務体質改善にほど遠い。業績悪化などから財務の健全性を示すシャープの自己資本比率は9.9%(9月末)に下がっており、99億円でこれを押し上げる効果はわずか。さらには、今回の出資は使途が新型パネルの開発関連に限定され、自由に使えるわけではない。
シャープは9.9%の出資比率で資本受け入れに合意した鴻海の他にも、米半導体大手、インテルとも資本提携交渉しているが、不調とも伝わる。銀行団が支えているため資金繰りに事欠くわけではないが、シャープの株価が低迷を続ける株式市場からは「抜本策が必要だ」(外資系アナリスト)との声が強まるばかりだ。