他人のパソコン(PC)にウイルスをしのばせて遠隔操作し、誤認逮捕による被害者を出す事態を引き起こした「PC遠隔操作事件」の犯人が、いまだに捕まらない。
警察庁は2012年12月12日、捜査情報提供者に300万円の報奨金を出すと発表した。殺人など凶悪事件でなくても公的懸賞金の対象とする初の措置だ。それだけ捜査が難航しているとも考えられる。
通信履歴が追跡できないうえ「初動のミス」が大きく影響
真犯人を名乗る人物から「自殺予告」ともとれるメールが弁護士やマスコミ各社に送られたのは、今から1か月前の11月13日。メールに添付されていた画像の撮影場所や日時の情報をもとに、警察は横浜市保土ヶ谷区で集中的に捜査を行ったようだが、画像の情報そのものが改ざんされていた疑いが強く、犯人探しは空振りに終わってしまった。
11月30日には、札幌市のレンタルサーバー代理店「ゼロ」がこの事件について、警察から捜査協力を求められたと発表した。同社の回線とパソコンを使ってインターネット掲示板「2ちゃんねる」へ接続し、犯人が書き込んだ記録がないかを確認したのだという。一方で同社は「『2ちゃんねる』のサーバーに管理者として接続する権限もパスワード情報も持っていません」として、警察が入手したパスワードによる2ちゃんねるサーバーへのログイン依頼を「捜査協力の範囲を超えている」として断ったことを明らかにしている。
捜査が難航する中で、警察は報奨金設定に踏み切った。「一定のプログラミング知識を有しているものと考えられます」「『2ちゃんねる』を常時利用していると考えられます」などと、犯人の特徴が箇条書きにされている。ただ、これまで明らかにされた情報以上のものは含まれておらず、また犯罪内容の特性から犯人の容姿に関する記述はない。聞き慣れない「専門用語」もあり、ネット事情に通じている人以外に、どこまで広く理解される内容かは微妙だ。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏はJ-CASTニュースの取材に、「犯人逮捕は難しい」と話す。犯人が使用したメールの発信元が分からないように匿名化するソフト「Tor(トーア)」により、通信履歴の追跡が不可能なのが大きな理由だ。今から考えれば、警察が初動の段階で「サイバー犯罪のプロが担当していれば、事態は変わったかもしれません」。確かに犯人はTorの使用をはじめ、証拠を残さない点でぬかりない。ネットに長年親しんでいて、専用ツールや方法を「よく知っている」レベルではあるようだ。
報奨金呼びかけの犯人像役立たず?
警察は事件解決のため、相応の規模で捜査にあたってきた。12月12日放送の「モーニングバード!」(テレビ朝日系)では、これまでの捜査状況を説明。163人の態勢を組み、不正な書き込みが見つかった横浜市や大阪市のウェブサイトのアクセス解析ではデータの送受信記録を「90億ログ分」調べたという。それにもかかわらず、寄せられた情報は十数件とわずかにとどまっている。
「報奨金300万円」は、誤認逮捕までしてしまった警察が、もはやメンツにこだわっている場合ではないと広く市民に協力を呼びかけたとも思える。だがネット上の反応は冷ややかだ。「犯人の特徴」に書かれている情報に際立った点がないこともあり、ツイッターには「要はお手上げ」「特に何もわかってないに等しい気がする」「これなんの特徴にもなってなくないか」と警察への批判的な書き込みが並んだ。
井上氏は「このままでは捜査の進展は厳しい」とする一方、犯人が使った「Tor」は米国の非営利団体が開発、管理していることから、「警察はこの団体に、犯人のIPアドレス情報など開示を依頼しているだろうか」と疑問を投げかけた。既に働きかけているかもしれず、また団体側が個人情報の提供に応じるかどうかは不明だが、犯人特定の手掛かりを得るために試してみる価値はあるだろう。