NTTドコモが、「携帯競争」でのひとり負けから抜け出せない。2012年11月の契約者数は、解約数が新規契約数を上回る「純減」を5年3か月ぶりに記録した。
ライバルのKDDIとソフトバンクモバイル(SBM)は、米アップルの「アイフォーン(iPhone)5」の発売で勢いに乗る。「iPhoneなし戦略」のドコモは防戦一方だ。
番号持ち運び制度で過去最高の21万件転出
電気通信事業者協会(TCA)が2012年12月7日に発表した、11月の携帯電話の事業者別契約数によると、NTTドコモは4万800件の純減となった。これに対してKDDIは22万8800件、SBMは30万1900件のいずれも純増となり、明暗を分けた。
特に深刻なのが、番号持ち運び制度(MNP)の影響だ。ドコモ広報に問い合わせると、11月は21万2100件の転出だったという。これはMNPを開始した2006年10月以降最大の数字で、大量の顧客がライバルに流れたことになる。
主要な要因として「iPhone」の存在を挙げる専門家は多い。9月21日に発売された最新の「iPhone 5」は、発売3日間で500万台を世界で売り上げ、国内での人気も上々だ。調査会社BCNがまとめた11月のスマートフォンの「売れ筋ランキング」を見ると、上位1~5位はKDDI、SBMそれぞれが発売したiPhone 5が独占した。
ドコモの山田隆持・前社長や加藤薫・現社長は、iPhoneの販売を全面的には否定してはこなかった。「ドコモ、iPhone発売か」との憶測もたびたび流れる。12月7日付の日本経済新聞朝刊は、ドコモ幹部の「来年以降のiPhone導入を考えざるを得ない」とのコメントを引用している。
「iPhoneなし」による事業への影響も無視できない。10月26日に発表した2013年3月期の業績予想では、連結税引き前利益が8140億円と従来発表から下方修正した。2012年4~9月期の決算は、税引き前利益が前年同期比9%減の4655億円となった。販促費が膨らんだことが原因とも伝えられるが、裏を返せば巨額の経費を投じる必要があるほどKDDIやSBMとの競争がし烈で、かつ苦戦しているともみられる。加藤社長は会見で、iPhone 5の影響が想定以上に強かったと認めたという。
モバイル事情に詳しい武蔵野学院大学准教授の木暮祐一氏は、ドコモはiPhoneを発売すべきだとの考えを示す。「手を広げているコンテンツ事業がいまひとつうまくいっていない。根本的に事業戦略を変える時期ではないか」というのだ。
広く顧客を獲得して通信サービスで稼ぐべき
ドコモがiPhoneに手を出さないのは、アップルによる「コントロール」を嫌気しているためと言われる。山田前社長もかつて、ワンセグや「お財布ケータイ」と従来から人気が高かった機能や、ドコモ独自のネットワークサービスを提供できない理由からiPhoneを見送っていると説明していた。
木暮氏は、「今は世界どこへ行っても、iPhoneのように同じ端末を使える時代。ドコモのような通信事業者は、利用者が端末もネットワークも自由に選べるように配慮すべきです」と指摘し、iPhoneの発売を促す。だが、「ドコモがアップルにあれこれ要求を出して譲歩を引き出そうとしているのか。もし、好条件の下でiPhoneという『端末』を軸に稼ごうとしているとしたら、顧客満足を重視しているとは言えない」と批判する。
消費者の「ドコモ版iPhone」実現に対する期待は今も大きい。だが、このままiPhoneを売らないことで顧客が流出し続ければ、じり貧になる恐れが強い。たとえアップルによる販売条件が厳しいとしても、要望の大きいiPhoneを手がけて広く顧客を獲得し、本来のネットワーク事業で質の高い通信サービスを提供して「通信料」などで収益を上げる努力をするのが望ましいのではないか、と提案した。