北朝鮮の故・金正日総書記の専属料理人を務めた藤本健二氏が2012年12月6日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で講演し、北朝鮮が近く予定している事実上の弾道ミサイル発射について、金正恩第1書記は積極的ではないとの見方を示した。また、藤本氏は正恩氏の少年時代から面識があることから、「あの若さで偉大な人になられたなという印象」などと、終始正恩氏に同情的な発言を繰り返した。
藤本氏は1987年から2001年まで正日氏の専属料理人として平壌に滞在。2012年7月下旬から8月初旬にかけて2週間にわたって正恩氏の招きで平壌を訪問し、11年ぶりの再会を果たした。会見は、訪朝の様子をまとめた著書「引き裂かれた約束」(講談社)の出版を記念して開かれた。
ロケットは命日の12月17日打ち上げ?
北朝鮮は、12月10日から22日の間の間に衛星打ち上げ用のロケットを発射することを発表している。ロケットは弾道ミサイル技術を活用しており、国連安全保障理事会の決議にも反することから、中国を含む周辺諸国が強く打ち上げに反対している。
藤本氏は、ロケットは正日氏の命日にあたる12月17日に打ち上げられるとの見方を示した上で、
「金正恩氏がミサイルを率先して打ち上げようと言うことではないと思う。しかしながら、父親の命日に祝砲をあげないといけない、という気持ちも持っていると思う」
と、正恩氏は打ち上げに乗り気でないと推測。この推測の理由については、
「金正恩氏の心のどこかを、私は知っている」
と述べた。その上で、
「『とんでもないことだ』と諸外国は見ているが、北朝鮮国民に対して、見せつけなければいけないことでもある。お金もかかるんですよね、確かに、ロケットというのは…。なるべくだったらやめて欲しいと願っている、これは致し方ないと思う。」
と、藤本氏は困惑している様子だった。
「正男氏と正恩氏は『1度も会っていない』」
また、日朝関係の改善には拉致問題の進展が不可欠だとした上で、
「この問題を片付けないことには、1歩も前に進まない。どうしても前に進まない。その交渉に当たる人間は、骨のある政治家でなければ、絶対かなうことはない」
と主張。自民党の安倍晋三総裁については、「(交渉役として)適していると思う」と述べた。
マカオやシンガポールを転々としているとされる正日氏の長男、正男氏については、
「北朝鮮では、彼の力はゼロに等しい」
「正男氏と正恩氏は1度も会っていない」
と、本国との疎遠ぶりを明らかにした。
再訪朝延期で「門が閉まってしまった」
藤本氏は、9月にも再訪朝を試みたが、ビザが下りず断念。それ以降、北朝鮮側とのコンタクトは途絶えているという。ビザが下りなかった理由について、松原仁・前拉致問題担当相による訪朝の延期要請を挙げ、
「(9月1日に再訪朝するという)今年最初の約束を、私が破ってしまった。だから共和国国内では、『ほら見なさい、藤本はうそつきだ』というあれ(評判)が広まってしまったと思いますね。9月1日に私が帰っていれば、門は開いたままだった。今は閉まってしまった」
と松原氏を非難した。なお、松原氏は、ウェブサイトなどで藤本氏との面会は認めながらも、
「同氏(編注:藤本氏)が同著作(編注:「引き裂かれた約束」)の記述とは全く異なる理由から再訪朝を延期していたことを、私は承知しておりました。したがいまして、私が同氏に訪朝の延期を要請する必要も、その事実もなかったことを断言いたします」
「結果として、同書はその全体として、一定の意図をもって書かれていることは間違いないと考えます。その意図のひとつは、同氏が訪朝延期の責任を私に転嫁するというものではないかと推察いたします」
として、今回の著書の内容に反論している。