(ゆいっこ花巻;増子義久)
肌を刺すような師走の寒波に勇壮な権現舞が宙を舞った―2日、大槌町大槌の第10仮設団地の広場で披露された「晴山獅子舞」。青森県十和田市に伝わる伝統神楽の4人衆が舞を奉納すると、獅子頭(権現さま)の前には長い列が…。「権現さまに噛んでもらうと災難が去るという。来年こそは良い年になるように」。 仮設暮らしの被災者たちは頭を突き出しながらこう口をそろえた。
津波などで損傷を受けた遺体を生前の姿に戻す「復元納棺師」の笹原留似子(るいこ)さん(40)=北上市在住=が奉納の橋渡しをした。神楽衆の中に葬儀社に勤める知人がいたのがきっかけで、大槌町では昨年に次いで2回目。笹原さんは震災後、約400人の犠牲者の遺体を復元し、社会に貢献した人をたたえる今年度の「シチズン・オブ・ザ・イヤ-」にも選ばれた。しかし、行方不明の人たちのことが一時も頭を離れなかった。
同じ団地に住む白銀照男さん(63)はあの震災で母親(当時84歳)と妻(55歳)、それに一人娘(33歳)を一度に失い、いまだ行方不明のままだ。肉親の名前を叫びながら、瓦礫(がれき)をさ迷う白銀さんの姿を笹原さんはテレビで知った。すぐ現場に駆けつけた。「早く見つけて、返してあげたい」と白銀さんと一緒に3人を捜し歩いたことも。
白銀さんはこの日、土台を残すだけの住居跡に花束を捧げて、神楽衆の到着を待った。2年近くになろうとする今も目の前には荒涼たる瓦礫の荒野が延々と広がっている。ふと漏らした。「慣れって怖いね。この景色が当たり前みたいになって、生活の匂いがしみこんだ景色がどんどん遠ざかる感じがして…。こんな時、生前のおもかげを求めて遺体と対面し続けた笹原さんのことを思い出し、ハッとするんです」
佐々木秀美保存会長ら晴山獅子舞の一行はまず防波堤が無残に倒壊したままの海に向かった。目の前には食品加工場の残骸が…。「妻はここで働いていたんです。まだ、どこかで生きている気がして」と白銀さん。大震災による岩手県内の行方不明者は1205人(9月11日現在)で、うち大槌町が473人と圧倒 的に多い。
納棺の仕事のかたわら、「つなげるつながる委員会」や「お医者さんのお茶っこ」などの支援組織を主宰する笹原さんがニッコリ微笑みながら"権現さま"に向かって注文を付けた。「照さん(白銀さん)は頭だけではなく、全身を噛んであげてくださいね」
ゆいっこ
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