日本政府観光局が2012年11月中旬に発表した10月の訪日中国人旅行者数(推計)は、東日本大震災前の2010年同月比33.2%減の7万1000人と激減した。日本政府による尖閣諸島国有化を機に日中関係が悪化、9月の同10.1%減をさらに大幅に上回る落ち込みだ。
ただ、東南アジアを中心に訪日外国人旅行者全体の動向は堅調で、「中国重視」の観光政策が変化する可能性も出ている。
8月までは絶好調だった中国だが・・・
訪日中国人旅行者の大幅減は、中国人の旅行シーズンである「国慶節」(10月1日)前後に、訪日団体ツアーの大量キャンセルが出たことが大きい。11月以降についても、井手憲文観光庁長官は記者会見で「好転する状況にはない」と述べており、回復の兆しが見えていないのが現状だ。
中国からの旅行者は今年に入り、8月までは絶好調だった。前年同期比74.3%増と驚異的な伸びを見せ、人数でも7月は月間20万人を超えて、韓国を追いこして国別のトップに立っていた。それだけに急ブレーキぶりが際立っている。
しかしながら、そんな訪日中国人の絶不調に反比例するように、東南アジアや米国、豪州からの訪日旅行者は好調だ。台湾(27.0%増)、タイ(14.0%増)、マレーシア(22.4%増)、ベトナム(49.1%増)、インド(1.5%増)からの訪日旅行者数は、いずれも10月としては過去最高を更新した。また、米国(0.9%増)からの訪日数は今年7月以来のプラスに転じたほか、豪州(7.4%増)からの訪日数は東日本大震災後初めてプラスとなった。
東南アジアや米国からの訪日数の増加については、原発事故への懸念が薄れる中、格安航空会社(LCC)の新規就航などで座席供給数が増えたり、運賃が下がったりした効果があったとされる。また、豪州の回復については大型クルーズ船の寄港が大きかったとみられている。
「中国頼み」の見直しも
一方、円高などを背景に日本人の海外旅行は活況だ。日本旅行業協会が先月まとめた10月のパッケージツアーの予約状況によると、中国ツアーは前年同期比約7割減に落ち込んでいるのに対し、米国・カナダは約1.5倍に、ハワイは約2割増、グアム・サイパンは約4割増に上る。
旅行大手JTBでも欧米ツアーは特に好調といい、今年度下半期の訪中旅行者は前年同期比7~6割減と見るものの、欧米向け旅行者は約25%増、ハワイ向けは約23%増などと見込む。この結果、2013年3月期連結営業利益予想については当初見通しの57億円から158億円に上方修正した。
別の旅行会社も「中国旅行をやめる人が増えても、他の国などに行き先を変更するだけなので、旅行需要自体は減っていない。逆に欧米ツアーが好調なので業績も上がっている」とする。
国別の訪日旅行者数は、韓国、中国、台湾がベストスリー。全体の約6割を占める。かなりの差で米国や香港が続き、その他とは桁違いの大差があるのが現状だが、井手長官は、中国からの訪日旅行者の減少に絡み、「南アジアやASEAN(東南アジア諸国連合)など中国以外の国に今まで以上の力を入れたい」と述べた。 日本人旅行者の「中国離れ」、中国人の訪日旅行者の急減が進む中、日本の観光政策も「中国頼み」からの脱却を探ることになりそうだ。