競馬での儲けが1億4000万円だったのに、税額が5億7000万円にもなるのはおかしい――。馬券収入を巡り脱税で起訴された大阪市内の会社員男性(39)が、外れ馬券も経費に入れられるべきだと、法廷で無実を訴えて話題だ。
「一生かかっても払えない!」
大阪地裁で2012年11月19日にあった初公判で、年収800万円という会社員男性側は、税額の理不尽さをこう訴えた。
利益1億4000万円に、税額5億7000万円
新聞各紙によると、男性は、市販の競馬予想ソフトを独自に改良して、04年から本格的な馬券購入を始めた。銀行に専用口座を作って100万円からスタートし、土日に全レースの馬券をネットで購入して、儲けを上げ続けた。
07~09年で、計28億7000万円分の馬券を買い、当たり分の配当額は計30億1000万になった。つまり、この3年間で1億4000万円の利益を上げていたことになる。
ところが、大阪国税局は、当たり馬券の購入額1億1000万円しか経費と認めず、残りの29億円を利益に相当する一時所得とみなして、5億7000万円分を脱税したと認定した。いずれにせよ男性は確定申告をしていなかったため、無申告加算税を含めて6億9000万円を追徴課税するとともに、大阪地検に所得税法違反の罪で告発した。地検は11年2月に男性を在宅起訴している。
大阪国税局では、外れ馬券を経費とみなさなかったのは、所得税法34条2項で「収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」と経費が規定されていることを根拠に挙げている。
こうした内容が報じられると、ネット上では、「これはむちゃくちゃな話だな こんなの払えるわけ無いだろ」「売上高だけで税をかけるようなもんで、普通に考えておかしい」といった疑問が渦巻いた。
確かに、競馬の利益は、株やFXなどと同様に、外れ分も入れて考えるのが普通の感覚だ。それにもかかわらず、「直接要した金額」になぜ外れ馬券分が入らないのか。
「直接的な経費とみなせるのは、当たり馬券分だけ」
大阪国税局の広報室では、個別事案についてはコメントできないとしつつ、一般論としてこう説明する。
「税務当局では、外れ馬券分は、間接的にかかった額だと解釈しているからです。ですから、直接的にかかった額は、当たり馬券分だけということです」
判例があるかどうかはすぐに分からないとしたが、一般的な法解釈の本でもそう解説されているという。
国税局によると、株やFXの利益は、雑所得として、必要経費が控除されるが、競馬や競輪では、一時所得と分類されるため、その限りではない。また、宝くじの利益は、当せん金付証票法の規定で非課税になっているが、所得税法で非課税とされるのは、ノーベル賞や五輪金メダルの賞金などだけだそうだ。
しかし、ネット上では、競馬そのものが自治体収入になっているなどとして、法制度へ疑問を投げかける向きも多い。ある中央省庁職員というブロガーは、その「霞が関公務員の日常」の記事で、「ハズレ馬券も経費にできるという確定判決を作ってほしい、そうじゃなきゃ安心して馬券が買えない」と訴えた。
ただ、ネット上では、外れ馬券について「競馬場に落ちてるの拾って来れば いくらでも捏造できる」といった問題点も挙げられている。
会社員男性は、無申告だった理由について、「申告する意思はあったが、一生かかっても払えない税金を負うため、申告できなかった」と述べたという。とすると、外れ馬券分が経費にならないことを知っていたということになるが、そもそも告発されるリスクがありながらなぜ馬券購入を続けたのかはナゾだ。