「Four more years」(あと4年)―2012年11月7日(日本時間)、再選が決まったバラク・オバマ大統領の発した、たった3単語のこのツイートはたちまち数十万人にリツィートされた。オバマ大統領のツイッターのフォロワーは約2400万人。ツイッター選挙と言われた米大統領選を最終的に制したのはオバマだった。なぜ米大統領選はツイッター選挙といわれるのか。なぜオバマは勝てたのか、舞台裏を探る。
08年には「インフラ」はそろっていた
大統領選で本格的にインターネットが利用されだしたのが04年。民主党のハワード・ディーン候補がブログを活用して大量の選挙資金を集め、また、「ミートアップ」と呼ばれるウェブサイトで集会の告知をしたことが知られている。だが、これらの盛り上がりは直接の投票行動にはあまりつながらず、ディーン氏は予備選の段階でジョン・ケリー候補に敗れている。
08年にオバマ氏とジョン・マケイン候補が対決した選挙では、ユーチューブ、フェイスブック、ツイッターといった「インフラ」はひととおりそろい、情報発信などで活用された。なかでもオバマ陣営は、公式サイトに、支援を目的にしたSNS「マイ・バラック・オバマ・コム」を組み込み、「ファン層」との双方向の交流に力を注いだ。SNSを通して支持層の「友達の輪」が拡大し、集会の参加者もぐんぐん増え、とくに小口の集金活動で大きな成果を発揮した。
しかしながら候補者がツイッターやフェイスブックで支持をよびかけるのは、実は「ネット選挙」での、アウトプットの最終局面と言える。長期の選挙戦では、それらの基礎になる情報やシミュレーションが重視され、そこでの蓄積が本番での勝敗を左右する。
実際、4年後の12年のキャンペーンでは、この「インフラ」の活用はさらに洗練されたものになっていた。オバマ陣営では、08年に活躍したメンバーが、12年にも引き続きキャンペーンを担当。「サイバーメトリクス」と呼ばれるデータ分析の手法を活用した。
バラバラだったデータを1年半かけて統合
米タイム誌によると、オバマ陣営がこの4年間で力を入れたのが、データベースの整備だ。出口調査の結果や資金提供者のリストなど、バラバラに保存されていたデータを1年半かけてデータベースに統合した。いわゆる「ビッグデータ」の活用と呼ばれるものだ。
この統合されたデータを使用して、(1)集会で、どのような有名人を起用すると、どの程度得票できるか(2)どんなメールの内容にすると、どんな層が反応する確率が高いか(3)フェイスブックで働きかけると、どの程度の反応がありそうか(4)いつ、どのテレビ局にCM出稿すると効果的か、といった事柄の仮説検証がくりかえされた。試算の回数は、毎晩6万5000回にも及んだという。
これらの取り組みは、特にソーシャルメディア上で顕著な成果を上げた。フェイスブックとツイッターを見ただけでも、オバマ陣営とロムニー陣営では大きな違いが出ている。フェイスブックの「いいね!」の数は、オバマ氏が約3380万なのに対して、ロムニー氏は約1200万。ツイッターのフォロワー数で見ると、オバマ氏が約2400万人に達するのに対して、ロムニー氏は174万人で、文字通り「桁が違う」状況だ。
集金力にも差が出た。特に、オバマ陣営が12年5月11日にシアトルやロサンゼルスで開いた政治資金パーティーでは、有名人の起用やSNSの活用が呼び水になり、1日で約1800万ドル(14億7000万円)を集金。ロムニー氏が3月に集めた約1260万ドル(10億3000万円)を大きく上回った。
「ネット選挙の方程式」を実践
08年当時、オバマ氏はまだ自分ではツイッターをやっておらず、発信していたのはスタッフだった。しかし米国でもこの4年間にツイッターは急拡大した。08年時は選挙期間中の合計ツイート数が約180万だったのに対し、今回はオバマ氏とロムニー氏の候補者討論中だけで約1000万ツイートもあったという。
10年1月のハイチ地震のときから自ら発信するようになったオバマ氏は、「ツイッター世代」と重なる若者票の掘り起こしに成功した。18~29歳の若者の支持率は、オバマ氏60%に対してロムニー氏は37%だった。
ネットに詳しい選挙スタッフによる、早い段階からのSNS活用。候補者自らの積極的なツイッター発信。だれに向けてどのようなアプローチをするのが最も効果的か、その入念なリサーチと実践。これらに力を注ぎ、「ネット選挙で勝つための方程式」を忠実に実行してきたオバマ陣営が勝利するのは、いわば必然だったかもしれない。