「『ネット選挙』野放し」「告示後もさまざまな書き込み」「ネット上で選挙違反続出?」「公選法追いつかず」――。
2011年11月の大阪府知事・大阪市長のダブル選では、こんな見出しの記事が新聞各紙を飾った。公選法では選挙でのネット利用は認められていないにもかかわらず、多くの府民や市民が、候補者の演説日程だけでなく、支持や不支持のコメントをそれぞれ自由にツイッターなどに書き込んだからだ。
政見放送や街頭演説の様子も勝手に動画サイトにアップされ、中には30万回を超えるアクセスを記録したものもあった。大半は各候補の選対事務所とは無縁の一般の人たちによるもので、いわば「みんなが違反者」ともいうべき異常事態。「市民レベルでのネット選挙は解禁になった」とまで言われた。
「ナマ橋下だ-」「なんかかっこいい」
現大阪市長の橋下徹氏が府知事を辞職までして仕掛けた大阪ダブル選挙は、告示前から過熱していた。「大阪都構想」をめぐり、前市長の平松邦夫氏との関係が悪化、互いに罵倒しあう対立状態に。週刊誌や大手メディアによる橋下バッシングが続く中、市長選では民主と自民に加えて共産党も現職の平松氏支援を決めた。無党派層に働きかける橋下氏と、既成政党に支えられた平松氏、という構図になった。
ツイッター利用が問題視され始めたのは11月10日の府知事選の告示直後だ。「大阪維新の会」所属の府知事候補、松井一郎氏の応援演説でマイクを握る橋下氏の写真や、橋下氏の演説予定などがツイッターに次々と投稿され、「リツイート」(転送投稿)された。
市長選告示後の13日以降は拍車がかかり、橋下氏がミナミのアメリカ村で若者たちに向けて「ゲリラ演説」をした際は、「ナマ橋下だ-」「なんかかっこいい」といったツイートやリツイートが駆け巡った。
公選法に従って大阪維新の会は知事選告示後、橋下氏も松井氏もツイッターとブログ使用を中止し、平松陣営もネットの活用を中断していた。中には自らのツイッターやブログに候補の演説日程を書き込む府議や市議はいたが、新聞報道などによると、ツイッター投稿の大半は市民レベルでの自然発生的なものだった。ツイッターで情報を知った市民が橋下氏の演説場所に駆けつけ、そこから発信されるツイッター情報でさらに聴衆が増えていったという。
総務省の見解では、有権者による選挙関連のツイートも、場合によっては公選法違反となる。大阪府と大阪市選管は当時、ツイッターに関する問い合わせにそうした原則論を繰り返した。しかし、「投票を呼びかけながら選挙への関心をそぐのか」と、かえって批判を浴びる始末だった。
ニールセン社の調べでは、11年9月時点の国内のツイッター利用者は若者世代を中心に前年同月比3割増の約1441万人に膨れ上がっていた。
マック赤坂氏の政見放送が動画サイトで大人気
ダブル選挙への関心はネットの掲示板でも高く、関連スレッドが林立した。支持する候補への応援コメントのほか、不支持候補を揶揄する厳しい書き込みも相次いだ。
「何が言いたいのか分からんわ」「偉そうだからきらい。ほんとに実行できんのか」。街頭演説についてはこんな記述が並び、テレビ生中継が予定された市長選討論会を平松氏が突如キャンセルした際には「ドタキャンで完全に見損なったわ」「橋下の圧勝決まったな」と書き込まれた。市選管は公選法の想定外に事態に、困惑するばかりだった。
動画サイトに絡む問題も浮上した。公選法はテレビの政見放送の回数や時間について選挙ごとに厳格に定めており、総務省の見解では「政見放送を動画サイトに投稿することは法律に抵触する恐れあり」。
ところが府知事選の告示後、候補者7人すべての政見放送がユーチューブにアップされ、選挙期間を通じて削除されなかったのだ。とりわけ「10度、20度、30度~」と笑顔で口角を上げる「スマイル党」のマック赤坂氏の映像は話題となり、アクセス数は選挙期間中だけで30万回以上に達した。
橋下氏の街頭演説の多くも動画サイトに投稿され、「演説うますぎ」「聞かせるねえ」などの感想が書き込まれた。府や市選管は「投稿者の特定は難しい」と黙認するしかなかった。
30代の投票率、前回より2割以上増
ツイッターやネットの議論が後押ししたのか、それともダブル選で盛り上がったのか、知事選も市長選も投票率はいずれも前回を超え、中でも市長選は17.31ポイント増の60.92%。20代から50代までの全年代で16ポイント以上も上回り、特に30代の投票率は前回より20.8ポイントも増えた。選挙結果は、ツイッターやネットで評価が高く、無党派層の取り込みに成功したとみられる橋下氏の圧勝だった。
この大阪ダブル選でも明らかなように、公選法をよそに、このところ地方選では急激にネット規制の有名無実化が進む。
2年ぶりの国政選挙となる12月16日投開票の衆院総選挙。「公選法に違反せずに、何とか上手にネットユーザー層を取り込む方法はないものか」。全国の司令塔となる各政党本部の担当者は知恵を絞りながら、12月4日の公示日を迎える。