【Net@総選挙】 第2回
公選法に「確信犯」で挑む 「恐れるな」「罪に問われることはない」

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「例の件ですが起訴猶予です。不起訴処分です」

    2012年10月5日、前年の統一地方選の福岡市議選に立候補した本山貴春さん(30)の携帯電話が鳴った。福岡地検の事務官からだった。起訴猶予とは、違法性があり、起訴要件も備わっているものの、公益上の見地から「起訴して処罰するに値しない」処分をいう。事務官は「これにて完全に終了です」と付け加えた。

   この選挙で本山さんは、ネットを使った運動を大々的に繰り広げ、その後、福岡県警から公選法違反の容疑で書類送検されていた。ネットでの選挙活動を認めない公選法に、公然と挑戦した候補者だった。それが「不起訴」だという。いったいどういうことなのか。

すべてのネットツールを活用した

   本山さんが出馬したのは11年春の福岡市議選の南区。定数11に15人が立候補し、4月1日の告示を目前に控えた3月27日、本山さんは「インターネット選挙解禁宣言!」と題する文章をブログに掲載し、総務省などに宣戦を布告する。その概略はこうだ。

   「総務省などは『公職選挙法は選挙におけるインターネット利用を禁止している』という見解を示していますが、あくまで行政の見解であって(中略)司法判断は示されておらず、直ちに違法ということではありません」

   「『ネット選挙禁止』の根拠としているのは公選法の『文書図画の頒布』に関する規定ですが、この目的は野放図な宣伝費をかけないようにするためです。(中略)私は、ウェブサイトは公選法が規制する文書図画にあたらないと考えており、選挙運動中のインターネットメディアの利用は制限されないと解釈します」

   「私は選挙期間中もウェブサイトを更新します。これをきっかけに、なし崩し的にインターネット選挙が解禁されるよう望みます」

   この言葉通り、4月9日までの選挙運動期間中、ブログを連日更新して自らの政策や街頭演説の日程を書き込み続けた。メルマガも配信した。またユーチューブで街頭演説を流したほか、期間中の毎日夜9時からはユーストリ-ムを通じて「本山たかはるの反乱てれび」を選挙事務所から生中継し、市政への提言や支持を視聴者に訴え続けた。

   地盤・看板・カバンを持たない本山さんは結局、最下位に終わったが、「考えられる範囲のすべてのネットツールを確信犯的に活用した選挙戦を展開できました」。

相手が「土俵にも上がらない」

   本山さんが福岡県警から公選法違反容疑で事情聴取を受けたのは、投票日から2か月後だった。そして11年10月11日、県警は公選法違反(文書図画の頒布)で本山さんを書類送検した。

   ところが、12年10月、検察側が出した結論は不起訴処分だった。

   本山さんは、裁判という土俵で「自分が選挙期間中に行ったインターネット利用について白黒をつけたい」と考えていた。だが、違法性を指摘しながらも「処分に値しない」との理由で、相手が土俵にすら上がらない。「この勝負はこちらの不戦勝だ」と思い直した。

   「福岡地検の判断は『不起訴』。これによりネット選挙は解禁された」――。10月6日、ブログで「勝利宣言」した。「これから公職選挙に立候補しようとするすべての人に申し上げます。何も恐れることはない、あなたが政治改革を志すのであれば、是非インターネットを通じて選挙期間中も主張を述べ、支持を訴えてほしい。あなたが罪に問われることは決してない」と記した。

阿久根市の竹原前市長も起訴猶予

   候補者自らがネット選挙を推進した前例はある。鹿児島県阿久根市の竹原信一・前市長だ。08年の市長選告示後に自らのブログを更新したとして送検されたが、「悪質性は低い」として、やはり起訴猶予となっている。

   竹原氏をはるかに上回るネット活用を「確信犯」として展開した本山さんはいまこう主張する。

「ネット選挙を禁じている総務省の見解に従えば、最も公約や政策を訴えるべき選挙期間中に候補者の手足は縛られ、有権者から候補者にアクセスする道も狭くならざるを得ません。しかし、そうした見解は、検察が起訴をあきらめたことからわかるように時代に合わないし無理がある。総選挙では確信を持ってインターネット選挙に取り組む候補者がより多く現れることを期待したい」

   次回は、候補者陣営のネット利用が不問とされたケースを報告し、その理由に迫りたい。

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