WBCの前哨戦として組まれたキューバ代表との2試合は、代表選手選抜の品定めとなっていたが、実は資金集めという重要なテーマがあった。その目論見は大きく外れ、早くも「侍ジャパン」のビジネスは壁に突き当たったようだ。
「この程度のメンバーで、あんな高い入場料を払えませんよ…」とファンが抗議しているような結果だった。第1戦の福岡ドームが1万7468人、第2戦の札幌ドームは2万1236人。これが2試合の観客数である。ペナントレースよりかなり少ない。
両ドームはプロ野球の常打ち球場で、公表されている収容人員は、福岡が3万8561人、札幌は4万476人。ちなみに、そこをフランチャイズにする球団の今シーズン2012年の1試合平均の観客動員は、福岡のソフトバンクが3万3993人、札幌の日本ハムは2万5813人。「国際親善試合」と銘打ったキューバ戦だったが、地元の野球ファンは反応しなかったようである。
4歳児でも外野席3000円超の設定では・・・
主催者の思惑が外れた理由は、入場料金の高さ。福岡ではプレミアムSS席が1万2000円、同S席が1万円。外野席でも3500円。札幌はフィールドシートが1万円、同SS席が8000円で、外野席は3300円。しかも4歳以上からの値段である。
この高額料金に見合う選手が出場していない、というのがファンの本心といっていい。第1戦の先発投手は大隣憲司(ソフトバンク)、4番はT-岡田(オリックス)。第2戦は先発沢村拓一(巨人)、4番糸井嘉男(日本ハム)。この日本チームが対するのは、ただ「世界最強軍団」と煽るだけで選手の名前もろくに知らないキューバ。どこに魅力があるのか。
日本チームにファンが期待したのは、日本人大リーガーの参加。だれもが望んだダルビッシュ有(レンジャース)、岩隈久志(マリナーズ)、青木宣親(ブルワーズ)らの不参加が決まった。これでは盛り上がりようない。
こういう状況なのだから、ファンが「出場選手と料金が釣り合わない」と思っても当然だろう。役者不足ということである。
キューバ戦はプロ野球界の新ビジネスの試みがあった。「侍ジャパン」の旗を立てて資金集めをしようという狙いである。
プロ野球選手会が「WBCの配分が少ない」として「改善しなければ参加しない」と宣言したことから、WBC本部と関係が危うくなった。とっくに参加表明していた野球機構が大慌てし、選手会に「侍ジャパン」を編成して稼ぐ、との案を提示して参加決着したことは周知の通りである。
その実行を見せたのが今回のキューバ戦。結果はファンに浸透するどころか、冷たく突き放された格好である。この不景気に1万円も払って調整不足を公言する相手との練習試合を見る気は起きなかったのだろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)