日本航空の再建に絡み、航空分野で公的支援を受けた企業が公正な競争を阻害しないためのガイドラインの策定などを検討する国土交通省が有識者会議「公的支援に関する競争政策検討小委員会」を設置した。
日航の支援を決めた民主党に反発する自民党や日航のライバル、全日本空輸などの強い要請を受けたものだが、ガイドライン策定の行方は見通せないのが実情だ。
公的支援を受けて急速に業績を回復した日航
日航は2010年1月に会社更生法の適用を申請して経営破綻した。企業再生支援機構が3500億円を出資したほか、取引先の金融機関から計5215億円の債権放棄を受け、大規模な人員削減や子会社の売却、不採算路線からの撤退などを断行し、再建を進めた結果、2012年3月期には2049億円と史上最大の営業利益を確保。2012年9月19日には東京証券取引所に再上場を果たした。
公的支援を受けて急速に業績を回復した日航に対し、自民党や全日空は「自助努力で頑張っている同業他社にとって不公平だ。公正な競争環境をゆがめている」と批判。公的支援を受けた企業に厳しい規制や条件を課す欧州連合(EU)の指針を参考に日本独自のガイドラインを策定するよう求め、羽田雄一郎国交相は8月の衆院国土交通委員会で、策定を検討するとの考えを明らかにしていた。
EUのガイドラインは全産業を対象
11月8日に開いた有識者会議の初会合では、国交省が航空局の担当者を12月にEUに派遣し、EUのガイドラインについて政府関係者や航空会社などから聞き取りをすると明らかにした。そのうえで議論が始まったが、委員からはさまざまな課題や問題点が挙げられた。
一つには、EUのガイドラインは全産業を対象にしているが、有識者会議で協議しようとしているのは航空分野という特定の産業にしぼったものである点だ。ガイドラインの対象をどう考えるのか、対象を全産業に広げた場合は公正取引委員会などが会議の正式なメンバーとして参加する必要がある、との意見も出た。
また、国交省は今年度末に有識者会議で結論をまとめてもらいたいとの意向だが、会議は初回を含めて計4回しか開催予定がなく、「十分な議論が必要ではないか」との声も上がった。
落としどころは容易に見通せない状況
EUを参考にしてガイドラインの策定を検討する、という点に関しても「米国にはガイドラインがないのに、初めからEUを参考にするというのには違和感がある」などの意見も出た。
そもそも国交省自身、これまで「複数の国家で構成するEUと日本とは体制が異なる」とし、EUのガイドラインをそのまま日本に取り入れることには否定的な立場だった。それにもかかわらず、ガイドライン策定の検討に動き出したのは、「政府・民主党として、自民党などの反発をかわし、ガス抜きしたいとの意向がある」(関係者)ためとされる。
ただ全日空は日航破綻前から、「国として日航を支援するなら、公正な環境を作ってほしい」と求めており、国交省はこれまでこうした議論をしてこなかったことから、今回は不十分な対応をするわけにはいかないという事情もあった。政権交代の可能性が取り沙汰されるなか、ガイドライン検討の落としどころは容易に見通せない状況だ。