国立の山梨大学が4年後にほぼ全講義を英語化すると一部で報じられ、論議が巻き起こっている。そんなことができるのか、疑問が多いからだ。
この大胆な内容を報じたのは、読売新聞の2012年11月14日付記事だ。
「英語以前に日本語に習熟したほうが良い」
記事によると、山梨大は、日本文学などを除き、2016年度までに、ほぼすべての講義で教材を英語にし、英語で講義するようにする。この英語化は、13年春から段階的に導入し、入試も早ければ16年実施分から2次試験に英語を課したい考えだという。山梨大には、医学、工学、生命環境学、教育人間科学の4学部があり、その大学院では、一部ですでに英語化されている。
講義を英語化するのは、グローバル化に対応するためだとした。もし記事のように、4年後をめどに完全移行するとすれば、全講義を英語化している公立の国際教養大学(秋田市)に次ぐものとなる。
すでに地元紙の山梨日日新聞が、ほぼすべての講義で教材を英語化することを11日に報じているが、読売の記事は、さらに踏み込んだ内容だ。
この内容が報じられると、ネット上では、驚きの声とともに、疑問視する向きも相次いだ。
「英語以前に日本語に習熟したほうが良いと思う」「講師がまともな英語で授業できるの?」「英語を理解する授業になって専門の授業にはならんだろうな」…
もっとも、「これは思い切った試みだ」「入学する前からわかってるなら、とても良さそう」などと期待する声はあった。
とはいえ、全入時代で学生などの質が低下する中で、4年後に講義の英語化などは果たしてできるものなのか。
山梨大の尾見康博准教授は、学内の立場から、こうした点についてツイッターで発言した。
決まったのは、段階的な「教材の英語化」だけ
尾見康博准教授はその中で、読売の報道について、「大きな方向としてまったくの誤報とは言えない」としながらも、ほぼ全講義も英語でするというのは誤報と言わざるをえないと指摘した。
別の研究者が「だいたい教授クラスで自分の専門を英語で授業できる能力があるならもっと他の有名大学に移れるんじゃないの」とツイートすると、尾見氏は、それなら世界中の英語圏の大学で教えられると同意した。
さらに、尾見氏は、講義が英語化された場合の懸念も示した。
「日本の大学の授業を英語で実施するとした場合,もし授業に帰国生や英語を母語とする留学生がいたら,その人たちが満足のいく授業ができるか,何よりその人たちがわかる英語で授業できるか」
山梨大の総務課では、取材に対し、読売などの報道について、「誤報ではありませんが、こちらの構想や願望と混同され、ちょっと誇張が過ぎたと思います。われわれもびっくりしています」と答えた。
その説明によると、決まったことは、2013年春から、英語教材を利用した講義を可能なところから段階的に実施していくということだけだという。このことについて、全教員に検討を依頼しており、12年12月中旬にその意向を調査して実施したいとした。
英語で講義するかは、教員の授業の進め方によるとしている。国際教養大とすぐに同じことができるわけではなく、可能なところを採り入れていくとした。
「国際教養大は、もともと英語で講義しようと設立されたもので、こちらとは前提が違います。今同じことをすれば、英語ができない人が来なくなって、志願者が減ってしまいますよ。グローバル化を進めているのは、ほかの国立大などとそれほど変わりはありませんが、教材を可能な限り英語化するというのは珍しいかもしれません」