鹿の異常増加が、奈良市内でも起こっている
「奈良のシカ」は「奈良公園の風景の中にとけこんで、わが国では数少ない優れた動物景観を生み出している」とされる国の天然記念物だ。春日大社では「神の遣い」とされ、古くから手厚く保護されてきた。東大寺や興福寺、正倉院といった日本の歴史的文化遺産と並び、奈良公園の名物となっている。
このシカ、実は野生動物という扱いで、公園に囲いはない。園内のシカ約1000頭は、近鉄奈良駅付近~春日山一帯を自由に行き来し、奈良市街地で、シカに遭遇することは珍しくない。
そのため、これまでも「鹿害」(ろくがい)と呼ばれる、シカによる被害は出ていた。シカは奈良公園内だけでなく奈良市一円で、保護の対象となっていて、駆除は出来ない。近隣住民は「自己防衛」を原則に、家にシカ除けの柵などを設置してきたそうだ。
ところが最近、奈良市でのシカに関する苦情が、行政に多く寄せられるようになった。ここ数年で全国的に報告されている野生鹿の異常増加が、奈良市内でも起こっていることが一因と見られる。
なかでも多いのは食害の報告だ。
「植栽(さつき)の新芽が鹿に食べられた」
「毎年栗拾いを楽しみにしているが、鹿に落ちた栗を食べられてしまう」
県が設置するシカ相談室には、このほか、大根、キャベツ、ホウレンソウ、人参、田植え直後の稲、プランターや鉢に植えた草花など、ありとあらゆるものを食べてしまうシカへの苦情が寄せられている。そもそも、野生のシカは繊維質のものならなんでも食べるため、「害獣」として扱われることがほとんどだ。日本国内の森林食害の6割はシカが原因という農林水産省の報告もある。
また、食害以外でも「自宅の庭に複数の鹿がくるため、庭が糞の匂いで臭くて困っている」「多く来ると怖い」「鹿に車を蹴られた」といった訴えも出ていた。
こうしたことから奈良県では公園外のシカについて調査を行い、13年4月以降に第三者委員会を組織して「適切な対策」を決定する方針だった。駆除や捕殺については、避妊等とならび、選択肢の一つとして上がっていた。