週刊朝日連載企画の真相 「こんなことを書いていいのか」内部からの反対を編集長が押し切って掲載

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   日本維新の会代表の橋下徹・大阪市長の出自をテーマにした週刊「朝日」の連載問題をめぐり、発行元の朝日新聞出版は2012年11月12日の臨時取締役会で、神徳英雄社長の辞任を決めた。またこの日午後、同社の篠崎充社長代行らが大阪市役所を訪問し、橋下市長に第三者機関「報道と人権委員会」による検証結果を報告するとともに、謝罪した。

   橋下市長は「すべて理解でき、納得できました」と述べたが、第三者機関の検証は記事掲載に至るまでの真相にどこまで切り込んだのか。

第三者機関「人間の主体的尊厳性を見失った記事」

   橋下市長に報告した朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」の見解は、週刊朝日編集部の編集長、デスク、記者、雑誌統括兼コンプライアンス担当(以下、雑誌統括)、筆者の佐野眞一氏らへの聞き取り調査などを経てまとめた。

   その内容はまず要旨として、連載第1回目(10月26日号)について

「見出しを含め、記事及び記事作成過程を通して橋下氏の出自を根拠にその人格を否定するという誤った考えを基調としている。人間の主体的尊厳性を見失っているというべきである」

   と厳しく追及し、

「部落差別を助長する表現が複数個所あり、差別されている人々をさらに苦しめる内容になっている。各所に橋下氏を直接侮辱する表現も見られる。さらに記事の主要部分が信憑性の疑わしい噂話で構成されており、事実の正確性に関しても問題がある」

   と指摘している。

   続いて企画段階の問題点として、「本企画は15回ほどの連載予定で、差別や偏見を助長する危険の伴う極めてセンシティブな内容ながら、企画書やレジュメもコンテもなく慎重な検討作業を欠いていた」と記した。

    記事チェック段階の問題点として挙げたのは、記事を読んだ朝日新聞出版の雑誌統括が

「「こんなことを書いていいのか」「完全な差別表現でありダメだ」」

   と編集長に意見したにもかかわらず、被差別部落の地区の特定などが削除や訂正されなかったことだ。表紙がすでに校了しており、この時点で掲載中止は不可能な状況だったため、最後は編集長が「これは佐野さんの原稿です。これで行かせてください」と押し切ったという。

   編集部内ではセンシティブな記事を掲載する際は顧問弁護士に助言を求めていたが、こうしたチェックを受けることなく最後は「時間切れ」の状況で掲載された、と指摘する。

   掲載後の対応についても、当初は記事の正当化とも取れるコメントを出したうえ、週刊朝日11月2日号に掲載した編集長名のおわび記事でも「タイトルや複数の不適切な記述のおわびにとどまり、問題の本質に気づいていなかった」としている。

朝日新聞出版「チェック体制の欠如が最大の問題」

   第三者機関の見解を受け、朝日新聞出版が作成した経過報告書は「企画書もないまま取材をスタートさせ、編集長、複数のデスクでの企画内容の検討が致命的に不足していた」と、チェック体制の欠陥を最大の問題としてとらえている。

   雑誌統括が修正を提案したにもかかわらず、編集部は作家のオリジナリティーを尊重することに気をとられ、「人格攻撃の差別記事という自覚がなかった」と省みたうえで、「結果的に掲載を止められなかったことは社としてチェック体制が機能しなかったためです」としている。

   再発防止策として、記者の人権研修、コンプライアンス担当の専任化、デスク(副編集長)の原稿相互チェック体制の強化をあげ、「読者への誓い」として「創刊90年の長い歴史を持つ週刊朝日は今回の記事で社会からの信頼を失い、読者を裏切りました。(中略)私たちは編集部のみならず、全社員が危機感を共有し、社をあげて失墜した信頼の回復に全力で努めていく所存です」と記した。

佐野氏、第三者機関の指摘は「真摯に受け止めます」

   第三者機関の見解を受けて、佐野氏も11月12日、コメントを発表した。

   佐野氏は

「人権や差別に対する配慮が足らなかったというご指摘は真摯に受け止めます。記述や表現に慎重さを欠いていた点は認めざるを得ません」

   とし、

「私の至らなかった最大の点は、現実に差別に苦しんでいる方々に寄り添う深い思いと配慮を欠いたことです。(中略)今後は慎重なうえにも慎重な記述を心がけます。ご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします」

   としている。

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