米大リーグ、テキサス・レンジャースのダルビッシュ有投手が、2013年3月開催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への不参加を表明した。3連覇を狙う日本代表にとっては、投手陣の柱を失う緊急事態だ。
前回大会では、イチロー選手(ニューヨーク・ヤンキース)や松坂大輔投手(ボストン・レッドソックス)ら大リーグ勢がチームを支えた。今回の場合、現段階で大リーグ所属の日本人選手の参加はひとりも決まっていない。
「今の自分に最も重要なのは休養」
ダルビッシュ投手は米国時間11月6日、WBC日本代表辞退について球団を通じて英文のコメントを出した。「母国である日本の代表に選ばれるのは常に大変名誉であり、とても難しい決断でした」としつつ、コーチやトレーナーと何度も協議したうえで、「今の自分に最も重要なのは、2013年のシーズンに向けて十分な休養をとること」との決断を下したという。メジャー1年目で16勝(9敗)と好成績を残したが、チームはワールドシリーズに進めなかった。来季を見据えて、自身の調整とチーム事情を優先した格好だ。
船出したばかりの日本代表「山本ジャパン」にとって、大きな痛手なのは間違いない。こうなると、ダルビッシュ投手以外のメジャー組の動向も気になる。
2009年大会では、イチロー選手や松坂投手ら計5人の日本人大リーガーが世界一に貢献した。当時イチロー選手は、2007年にシアトル・マリナーズと5年契約を延長しており、松坂投手も2007年レッドソックス入団時に6年契約を結んでいた。レギュラーシーズンでの成績は2人とも上々で、WBC参加に支障はなかった。一方、ヤンキースでプレーしていた松井秀喜選手は2008年シーズン後に左ひざの手術を受けたこともあり代表を辞退。ロサンゼルス・ドジャースで1年目を終えた黒田博樹投手(現ヤンキース)は、今回のダルビッシュ投手と似たような状況で、結局不参加を決めている。
ダルビッシュ投手以外ではどうか。イチロー選手と黒田投手はともにフリーエージェント(FA)となり、現時点で来季の所属先が決まっていない。仮に新チームに合流するとなれば、初めてのキャンプ参加を見送ってまでWBCに出るのか疑問だ。今季9勝を挙げた岩隈久志投手(マリナーズ)、3割まであと一息だった青木宣親選手(ミルウォーキー・ブルワーズ)は1年しかプレーしておらず、松坂投手は故障から復帰したものの今季は散々な成績で、松井選手に至っては途中で所属球団を解雇されている。いずれも余裕がない状況だ。
契約外の大会に参加してけがすれば解雇の恐れも
スポーツジャーナリストの菅谷齊氏は、第3回WBCに日本人大リーガーの主力級は誰も参加しないとみる。理由のひとつとして、選手が米国に渡った後、考え方が変化した可能性を指摘した。日本球界でプレーしていた頃は大リーグを目標としており、WBCのような国際大会で「大リーガーをやっつけろ」と意識を高めたが、自身が大リーグ入りした後は同じモチベーションを持ち続けていないだろうと推測する。
選手契約内容の絡みもありそうだ。大リーグの公式日程に含まれないWBCは契約項目の対象外となる。「もしも契約外のイベントに出て故障し、チームに迷惑をかけるようなら、解雇される恐れもあります」。日本人選手はリスクを背負いながら、出場するかどうかを判断しなければならない。
所属球団としても、チーム戦略に支障が出かねない選手派遣を望まないのが本音。しかも「別の思惑があるかもしれません」と言う。過去2回のWBCで米チームは優勝どころか、決勝にも進めなかった。日本ほど「真剣勝負」の色合いは濃くなかったにしても、「2大会続けての敗戦は、さすがに米国内でも批判が出ました」(菅谷氏)。球団にとっては、日本人選手をWBCに出さなければシーズン前のけがという危険性を避けられるうえ、結果的に米代表にも有利にはたらく――。こんな「政治的」な動きで参加に「待った」をかけても不思議はない、というわけだ。
仮に大リーガー抜きで戦った場合、日本の3連覇はあるだろうか。過去の大会に出場した経験者は、プロ野球選手の中にもいる。だが菅谷氏は「ダルビッシュ選手をはじめ、日本人大リーガーがそろったとしても優勝は難しい。日本のプロ野球選手だけでは戦力的に厳しく、3連覇は絶望的でしょう」と語った。