フィリピンバナナが大量に日本へ輸出され、価格が下がっている。
背景には、中国とフィリピンとの間に持ち上がっている、ある軋轢の影響があるようなのだ。
190円台は1979年以来の安値水準
総務省小売物価統計によると、バナナの店頭価格(東京都区部平均)は2011年10月に1キロあたり225円だったものが、2012年6月以降に200円程度まで下落。需要が高まる8~9月上旬にかけて210円程度まで回復したが、再び下落に転じている。
10月上旬には192円まで値下がりした。190円台は1979年(平均193円)以来の安値水準にあたる。ここ数年(平均値)は、2008年が248円、09年225円、10年には226円で推移していた。
秋から冬にかけて、バナナは熟成しにくくなり甘みが少なくなるので、価格が上がりづらくなる。当面、バナナは安値傾向が続きそうだ。
安値の原因は、輸入量が増えていることだ。ふだん食しているバナナは9割以上がフィリピンからの輸入品とされる。農林水産省の農産物輸出入情報によると、バナナの輸入は8月だけで約9万トン、62億円にのぼり、12年1~8月の累計では約75万トン、500億円を輸入している。
前年同期と比べて、輸入数量で2万3025トン(3.2%)増えた一方で、価格は12億円(2.4%)減っている。安く仕入れているため、安く消費者に届いているというわけだ。
南沙諸島の領有権めぐる対立が背景
フィリピンが日本向けのバナナの輸出を増やし始めたのは、2012年5月ごろから。ちょうどこの頃、中国とフィリピンの間では南シナ海での「にらみ合い」が激しくなっていた。南沙諸島の領有権をめぐる対立だ。5月には中国海軍の艦船が、フィリピンが領有権を主張するパラワン島沖のイロコイ礁近くで建築資材を降ろし、ブイや杭を設置する行動に出るなど、「一触即発」の状況だった。
中国はフィリピンにとって、日本に次ぐ世界第2位のバナナの輸出先。しかし、中国が南シナ海の領有権をめぐる対立の「嫌がらせ」の一環として、フィリピンバナナの輸入を制限し始めた。
中国メディアによると、中国がフィリピンからの輸入バナナの検疫を強化し、大連港や上海港では通関できなかったバナナが腐るなどしてフィリピンの業者に総額10億フィリピンペソ(約19億円)相当の被害が出ているという。そこでフィリピンでも、対抗して中国向けバナナの輸出を減らし、その分を日本に振り向けているようだ。