シンガポールが富裕層の海外移住先として人気だ。相続税や贈与税がかからないことや、資産の運用益にかかるキャピタルゲイン課税もゼロと、税制面の「恩典」が大きな魅力となっている。
ただ、世界にはオーストラリアやカナダ、アルゼンチンなど、相続税や贈与税がかからない国が他にもある。なぜ、シンガポールばかりがもてはやされるのだろう――。
富裕層を悩ます相続税対策
日本で暮らす富裕層は、相続税対策に頭を痛めている。日本の相続税は最大50%と、資産の半分が税金になり、世界的にも高い。巨額の遺産があっても「3代続けば、財産がなくなる」といわれるほどだ。
しかも、相続税の最高税率の引き上げや、社会保障や税の徴収を番号で管理する、いわゆる国民総背番号制(マイナンバー制度)の利用開始が2015年1月に予定されていて、富裕層の中には「国民の財産がすべて国家に掌握されてしまう」との強い懸念を抱いている人が少なくない。
国内景気の悪化や、福島第一原発の事故以降の電力料金の値上げや放射線による健康被害への懸念など、日本は生活面からも住みづらくなっていて、海外移住を検討する富裕層が増加している、とされる。
そんなことから、注目されているのがシンガポールだ。相続税や贈与税がかからないこともあるが、豪州やカナダなどに比べて地理的に日本から近く、先進国として他のアジア諸国に比べてインフラが整備されていることもある。「町なかも、下手な先進国よりもずっとキレイ」と評価は高い。金融立国で、個人情報の保持が厳格という一面ももつ。
医療や教育の水準は高く、治安もいい。言葉の壁も英語が使えれば、問題ない。日本食レストランも多く、食事に困ることもない。本格的な和食だけではなく、有名ラーメン店もこぞって出店。フレンチやイタリアンなどの店も充実している。デパートは高島屋が出店し、明治屋や紀伊国屋書店もある。
時差、1時間。「東京の24番目の区」と呼ばれるだけあって日本人が多く、暮らしに不自由はないようだ。