「他社より先にと飛びついた結果」
それにしても大手メディアはここ数か月、呆れるほどのミスや誤報が続いている。
6月中旬には時事通信のワシントン特派員が共同通信社が配信した記事をそのままパソコン上でコピーして自社記事に使用。さらに記事の頭部分のクレジット「ワシントン共同」を残したまま配信するなどした問題で、時事通信社の社長が引責辞任した。
九州では読売新聞西部本社で8月、暴力団取材をしている記者がメールを誤送信、誤報もからんで編集局長が更迭された。
さらに読売は10月11日付朝刊で、「森口尚史氏がiPS細胞の臨床応用成功」という大誤報を一面トップで流し、編集局長らが処分を受けた。共同通信や日本テレビも同じニュースを流し、処分が出た。
取材力の劣化とも組織疲労とも言える状況が相次ぐ中、今回の顔写真の誤使用問題について元東京大学新聞研究所教授でメディア研究者の桂敬一さんは、まず「この尼崎変死事件をマスコミが大騒ぎして取材競争している意味が私には分かりにくい。事件と社会とのつながりが見えてこないからです」と指摘する。
その上で、「『部数維持や視聴率を稼ぐために他社が騒いでるからウチも負けられない』といったマインドでの取材が、枕を並べての写真誤使用の要因になっているのでは。横並びの記者クラブの中で、他社より少し先に行こうとして次々に飛びついた挙句の失態でしょう」と話す。iPS細胞の誤報にも言及し、「組織内の身過ぎ世過ぎばかりで、自分の頭でものを考えて取材する記者が減っている状況が端的に現れている」と憂えている。