製品や食品など消費者が身の回りで起きる事故の再発を防止するため、原因調査に当たる「消費者安全調査委員会」(消費者事故調)が2012年10月1日、発足し、3日の初会合で、東京電力福島第1原発事故で政府の事故調査・検証委員会委員長を務めた畑村洋太郎・東大名誉教授を委員長に選出した。
被害者や遺族の要望を受けて設置が決まったもので、広範な消費者事故を第三者の立場で調査する初めての専門機関だ。ただ、予算と人員が限られる中、刑事責任を追及するのが仕事の警察などとの調整など課題は多い。
省庁縄張りの「スキマ事案」も手がける
被害者や遺族らからの調査申し出についての電話相談の受け付け(03・3507・9268)も始まり、さっそく多数の相談が寄せられ、4週間余りで24件の調査依頼を受け付けている。この中には2005年に東京都港区で起きたパロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による中毒事故関係者の申し出も含まれる。
航空・鉄道・船舶の事故は運輸安全委員会が担当するが、消費者事故調はこれ以外のすべての事故が調査対象。家電などの製品に関する事故や食品関係の被害、介護現場の事故など幅広く、こんにゃく入りゼリーの窒息死などは厚生労働省なのか農林水産省なのかなど、所管省庁が曖昧な「スキマ事案」も手掛ける。
消費者事故調は7人の委員(首相が任命)で構成し、①調査する事故の選定、②調査結果の公表、③関係省庁への改善策の提言――などをする。予め登録した各分野の専門家数十人の中から、事案ごとに2~3人を専門委員や臨時委員に任命して具体的な調査をすることになる。技術的な分析は国民生活センターの商品テスト部などに委託することもある。
製品の技術的な問題だけでなく、事故に至った背景も含めて調べるのが大きなポイント。そのために、関係者への聞き取りや立ち入り検査などの強い権限があり、他の役所が調査した結果に意見を言うこともできる。業者が立ち入りを拒んだり、虚偽の報告をした場合は30万円以下の罰金を科すという罰則も設けられている。
「年間100件」が目標だが・・・
こうした消費者事故調に、過去の事故関係者の期待は大きい。例えばエレベーター事故などでは、エレベーター製造元や管理会社の法人や従業員が業務上過失致死傷などで起訴され、事故の直接の原因となった技術的欠陥は一応、解明されても、業者の管理体制、メーカーと保守業者の関係の欠陥なども含めた総合的な原因までは、警察の捜査だけではなかなか明らかにならない。遺族がその点の調査を求めても、警察は権限外とし、資料開示要求にも「捜査の秘密」として詳しい証拠は出さず、管轄の官庁は「証拠物がないから解明は無理」と逃げ、往々にして堂々巡りになる。
原因企業に情報を求めるのは「損害賠償訴訟などの絡みもあって、なかなか協力が得られない」(司法関係者)。消費者事故調が、こうした壁を破り、「原因を徹底的に解明し、真の再発防止策を生み出す力になる」(同)可能性がある。
ただ、課題もある。事務方の消費者庁は年間100件程度の調査を目標というが、消費者事故調の予算は年2億円弱と限られ、専門委員となる実動部隊の選任もまだ進んでいない。畑村委員長は就任後の記者会見で「私見だが、丁寧にやるには、100件は難しいのではないか」と語っている。
警察との関係も問題だ。捜査は、あくまで関係者の刑事責任追及が目的で、刑事責任に関係がなければ、調べた内容が公表されるとは限らない。一方、「事故関係者が安心して証言するためには、消費者事故調の報告書を刑事事件の捜査や裁判の証拠に使わないルールが必要」と関係者は指摘する。運輸関係の事故調査と同様、永遠のテーマだ。
この点について、少なくとも、捜査機関が押収した証拠を消費者事故調が閲覧や検証できるよう、運輸安全委員会のような証拠品の取り扱いに関する覚書を捜査機関側と結んでおくことが不可欠というのが関係者の一致した見方。消費者庁も「覚書は検討を進めている」(阿南長官)といい、早急に詰める必要がありそうだ。