「年間100件」が目標だが・・・
こうした消費者事故調に、過去の事故関係者の期待は大きい。例えばエレベーター事故などでは、エレベーター製造元や管理会社の法人や従業員が業務上過失致死傷などで起訴され、事故の直接の原因となった技術的欠陥は一応、解明されても、業者の管理体制、メーカーと保守業者の関係の欠陥なども含めた総合的な原因までは、警察の捜査だけではなかなか明らかにならない。遺族がその点の調査を求めても、警察は権限外とし、資料開示要求にも「捜査の秘密」として詳しい証拠は出さず、管轄の官庁は「証拠物がないから解明は無理」と逃げ、往々にして堂々巡りになる。
原因企業に情報を求めるのは「損害賠償訴訟などの絡みもあって、なかなか協力が得られない」(司法関係者)。消費者事故調が、こうした壁を破り、「原因を徹底的に解明し、真の再発防止策を生み出す力になる」(同)可能性がある。
ただ、課題もある。事務方の消費者庁は年間100件程度の調査を目標というが、消費者事故調の予算は年2億円弱と限られ、専門委員となる実動部隊の選任もまだ進んでいない。畑村委員長は就任後の記者会見で「私見だが、丁寧にやるには、100件は難しいのではないか」と語っている。
警察との関係も問題だ。捜査は、あくまで関係者の刑事責任追及が目的で、刑事責任に関係がなければ、調べた内容が公表されるとは限らない。一方、「事故関係者が安心して証言するためには、消費者事故調の報告書を刑事事件の捜査や裁判の証拠に使わないルールが必要」と関係者は指摘する。運輸関係の事故調査と同様、永遠のテーマだ。
この点について、少なくとも、捜査機関が押収した証拠を消費者事故調が閲覧や検証できるよう、運輸安全委員会のような証拠品の取り扱いに関する覚書を捜査機関側と結んでおくことが不可欠というのが関係者の一致した見方。消費者庁も「覚書は検討を進めている」(阿南長官)といい、早急に詰める必要がありそうだ。