大学生をもつ親向けに就活説明会を開く大学が増えている。景気低迷で大学生の就職活動は厳しく、「うちの子は就職できるのかしら」と心配する親は少なくないだろう。
一方で就職率の高さは大学選びの「新基準」になりつつあり、大学側は入学説明会のときから「就活のサポート力」を競っている。就活へのかかわり方を、親にきちんと知っておいてもらうことも、就職率のアップには必要というわけだ。
企業も親向けの説明会を開く時代
大学が主催する保護者向けの就職説明会は、3~4年前から増えている。きっかけは2008年のリーマン・ショック。景気悪化に伴い、リストラや減給で親の就労環境や学生の就職率が急速に悪化したことがある。
ベネッセ教育研究開発センターの調査(大学1~4年の保護者6000人が回答)によると、大学4年生の子どもがいる保護者の60%が新卒での就職を心配している。また、卒業後の就職や進路に関する情報収集を、38%がインターネットや雑誌・書籍で入手。大学の説明会や相談窓口を利用した親は15%いた。
半面、72%が「親ができることは少ないと感じた」と回答した。
「就活のバカヤロー」などの著書がある大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、大学が「親の就職説明会」を開く理由について、「企業が採用を厳しくするなかで、まずはわが子を心配して就活の状況などを知りたいとする親への情報提供と、就活への理解を深めてもらうことがあります。その一方で子離れできていない親が増えていることがあり、そのために必要になってきました」と説明。どの大学の説明会も100~200人を集め、大盛況という。
問題は過剰に干渉しすぎる、子離れができていない親の存在だ。たとえば、親が子どもに代わって企業を選んで就職説明会の参加を予約する。それどころか、子どもがやっともらってきた内定に、「大手企業ではない」「業績が悪い」「ブラック企業ではないのか」、女子学生の場合には「営業職でやっていけるのか」などと言って、ひどいときには親が企業に内定取り消しの連絡を入れてしまうこともある。
「さすがに内定取り消しは企業も最初から採用をやり直すことになるので困ります。企業も当初こそ、親向けの説明会はやり過ぎと思っていたようですが、いまでは企業が親向けに説明会を開くような事態になっているほどですから、企業も大学にやってもらったほうが無用なトラブルが減ると、おおむね歓迎しているんです」と、石渡氏は言う。
親の時代とは就活環境が違う
「親の就職説明会」が必要なのは、現代と親が就職活動をしてきた時代との環境が大きく変わってしまったこともある。
いまの学生の親世代はバブル景気に沸いていたときに就活した人が少なくない。前出の「大手企業でなければダメ」などという親は、いまの学生にいわせれば「浮世離れ」した人なのだ。
石渡氏は、「いまは昔と違って宿泊費はおろか交通費の支給もありませんし、企業が内定を出してからも旅行気分の研修など、ありません。それどころか、業績が悪化すれば内定取り消しだってあり得ます。精神的にも金銭的にも、親の理解とサポートなしでは厳しいと言わざるを得ません」と話す。
親のお仕着せや過保護はダメだが、子どもにすべてお任せという無関心もよくない。大学主催の「親の就職説明会」では、親と子の「適切な距離感」を教えているようだ。