大臣発言は「ひとつの参考意見」にすぎない
なぜここまで注目されないのか。経済産業省幹部の「原子力規制委員会ができてからは、経産相の意見はあくまでひとつの参考意見に過ぎない」という言葉がすべてを語る。
原発の新設や運転開始の許認可権限は、9月に新設された政府の原子力規制委員会に移った。同委員会は環境省の外局との位置づけだが、国家行政組織法3条2項に基づいて設置されたいわゆる「三条委員会」で、内閣からの独立性が高い。
関係者によると、民主党政権は当初、規制委員会を設置する法案について、原発の設置許可には経産相の同意を必要とする条文を盛り込んだ。原発設置の判断は、安全面の基準を満たすだけではなく、「国全体のエネルギーの需給動向や、安全保障上の配慮が求められる」(経産省幹部)ためだ。
しかし、規制委の権限強化を求める自民、公明両党の要求で法案は修正され、経産相はあくまで規制委の審査の過程で「聴取を受ける」立場にとどまり、権限は大幅に縮減された。
このため、経産相の意向で原発の設置を止めたり、逆に設置を求める法的な権限はなくなったというわけだ。
原子力規制委員会の機能について、当の田中俊一委員長は安全審査に限定されるとの考えを繰り返したが、10月9日の枝野発言の翌日には「安全審査は経産大臣が何を言ってもまったく影響を受けない」と、原発新設の認可権限は規制委にあるとクギを刺した。
これに対し、枝野経産相は12日の閣議後の会見で、電力会社から原発新設の申請があった場合に経産相がこれを却下する権限が「ある」と明言した。
半面、「政省令の変更が必要になると思う」とも指摘。今後検討するというが、最終判断を経産相が行うことは譲らない構えだ。原発決定の「メカニズム」は不透明さを増している。
一方、火力発電向けの燃料費で経営を圧迫される電力各社は、停止中の原発再稼働や新規増設に早期にめどをつけたいのが本音。すでに設置許可済みの原発では、10月1日に電源開発(Jパワー)が福島事故で工事を停止していた大間原発(青森県大間町)の建設工事を年内に再開する意向を地元に伝えた。