昨年の菅野に続く、日本ハムの「一か八か」戦略
2012年度のプロ野球ドラフト会議は10月25日に行われ、日本ハムが大リーグ志望の大谷翔平投手(花巻東高)を1位指名してビッグニュースとなった。無理筋の行動だけに獲得の秘策を持っていると思われる。
大谷は時速160km/hを投げる大器。どのチームも狙っていたのだが、21日に「僕は大リーグで投げたい」と指名拒否の意思を明らかにした。この発言で多くの球団が方向転換せざるを得なかった。ところが日本ハムは栗山英樹監督がドラフト会議前日に「大谷君を指名する」と明言した。
そして会議。日本ハムは公言通り大谷を1位指名。むろん単独指名。その瞬間、会場はどよめいた。「すげぇ!」といった感じだった。
「大谷君はナンバーワン投手と思うから1位指名した」
栗山監督はそう指名理由を説明し、力を込めた。新人監督ながら今季のパ・リーグ優勝を手中にした自信がうかがえた。指名された大谷は「(大リーグで投げたい)思いは変わりません」と米国行きの意思を改めて示した。
日本ハムは昨年のドラフト会議で「巨人しか行かない」と宣言していた東海大の菅野智之投手を1位指名したが、入団拒否された。今年の大谷も同じような姿勢である。2年続けて一か八かの勝負に出た格好だ。
「田沢ルール」回避のオプションがあれば、大谷の決心も揺らぐ?
この指名は「無謀」という関係者の声は少なくない。あえて強行したのは、獲得の秘策があるはず、と推測する。
たとえば…。「入団しても好きなときに大リーグに行ってよい」――というオプション付きの契約だ。海外FAの資格を得るためには、一定の期間経過を必要とするが、自由契約選手の形をとればいつでも太平洋を越えられる。かつて、入団時にそのような契約を交わし、その権利を行使して大リーグに行った日本選手が現実にいた、と聞く。
このオプションは大谷にとってもありがたい。日本の球団に入らないまま米球界に入った場合、その後、帰国して3年間は日本のプロ野球でプレーできない。現在、レッドソックスの田沢純一が米球界に直接行ったときにできた、いわゆる「田沢ルール」である。
なんとも理不尽で自分勝手な取り決めだが、大谷は日本ハムに一度入団することでその規則は適用されない。いくら大器といっても高校生。米国に行っても大リーガーになるには3年から5年の「修行」を必要とするだろう。それを思えば、日本ハムで実力を蓄えるのも一つの方法といえる。
このウルトラCを日本ハムが提示する可能性はある。大谷にとって決して悪い話ではない。
栗山監督の度胸の良さを球界は認めたはずである。日本で育った財産をむざむざと米国に取られてたまるか、という思いもあったのだろう。一度は日本のプロ野球で投げろ、とのシグナルに違いない。
この日本ハムをはじめ、甲子園の春夏連覇で注目を集めた藤浪晋太郎投手(大阪桐蔭高)を阪神が4球団抽選の末に引き当てるなど、ドラフト会議は盛り上がった。そんな中で静かだったのが巨人。浪人菅野を予定通り指名したのだが、興奮もなければ感動もなかった。孤立していたように見えた。
日本シリーズではその日本ハムと巨人が対戦。因縁の戦いともいえる。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)