米アマゾン・ドット・コムが日本で電子書籍事業をスタートした。日本向けの電子書籍ストアを立ち上げ、同社が開発した書籍用端末を投入する。
「大本命」の国内市場参入は大きな関心を集めているが、書籍コンテンツの価格を見ると、従来の紙版の本と大きく変わらないものが多い。「価格破壊」を望む消費者にとっては、少々がっかりする船出となった。
「キンドルストア」日本語5万冊、外国語140万冊
アマゾンは電子書籍リーダー「キンドル・ペーパーホワイト」やタブレット型端末「キンドル・ファイア」の予約注文の受け付けを2012年10月24日に開始した。書籍専用端末としては楽天が7月に「コボタッチ」を投入、また小型タブレットも、米アップルが7.9インチサイズの「iPadミニ」を11月2日に発売すると発表したばかりだ。国内では「端末競争」が一段と激しくなってきた。
一方コンテンツは、これまでコミックは充実している半面ビジネス書や小説といった一般書籍の分野が伸び悩みと言われてきた。米国で電子書籍事業を軌道に乗せたアマゾンの上陸により、一気に市場が活性化するだろうか。
10月25日に「開店」した「キンドルストア」で取り扱っている日本語の書籍は、約5万冊。冊数は今後増えるとみられるが、英語ほか外国語の書籍数が140万冊なのに比べると、現状では貧弱な印象もある。
価格面でも、紙の本と比べて大幅に安いわけではない。例えば文庫本で、冲方丁氏の「天地明察」上巻は電子版が540円だが、紙版は580円だ。新書でも、池上彰氏の「伝える力」が、電子版で667円なのに対して紙版が840円と、若干の値下がりにとどまっている。一方、ハードカバーでは、ピーター・ドラッカー氏の「マネジメント(エッセンシャル版)」は、紙版が2100円だが電子版が1600円と下げ幅が大きかった。ところが2011年にベストセラーとなった「スティーブ・ジョブズ」の場合は電子、紙ともに同額だ。多少の差こそあるが、楽天の電子書籍ストアも全般的に似たような値段構成となっている。
「500円弱の文庫本なら、買って読み終わった後に古本買い取り店に持っていけば多少金額を回収できます。そもそも旧刊本の場合、最初から古本店での入手も考えられる。紙版と値段があまり変わらなければ、わざわざ専用端末を買ってまで電子書籍を読みたいと思うでしょうか」
と、ITジャーナリストの井上トシユキ氏は指摘する。
「先行発売」やバラ売りで紙の本と区別する
カカクコムは2012年8月28日~9月3日、電子書籍に関するアンケート調査を実施し、5847人から得た回答をもとに結果を公表している。「電子書籍を今後読んでみたいか」との問いには、20代で58.4%、30代も54.5%が「はい」と答えており、関心は高いとみられる。「でも、電車の中で端末を手に電子書籍を読んでいる人はほとんど見かけません」と井上氏。
理由として考えられるカギが、この調査に出ていた。「不満な点」で最も多かったのが「コンテンツが少ない」で49.4%、続いて「紙の書籍と比べてコンテンツが安くない」が33.5%となっている。これまで「種類が少ないうえ、割高」と感じられていたわけだ。さらに頼みのアマゾンも同じような状態では、とても「黒船」と言えるほどのインパクトは感じないだろう。
もちろん今後「価格破壊」が進む可能性はある。アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は10月25日付の日本経済新聞朝刊のインタビューで、価格はアマゾン、あるいは出版社が決める2種類の取引形態にすると明かした。そのうえで「電子書籍は当然紙の本より安くなると消費者は期待する。それを前提にどういう流通戦略をとるかは、出版社の経営手腕の見せどころだ」と語った。これに出版業界がどうこたえるか、価格下落が確実に進むかは不透明だ。
価格調整は複雑な事情が絡み、簡単ではないが、工夫次第で電子書籍の購買層拡大につなげられるかもしれないと井上氏は話す。例えば新刊本を出す際、電子版購入者は紙版の発売より1週間早く読める「先行発売」のようなキャンペーンを打つ、あるいは購入した電子書籍を読み終えたら、販売元が有料で下取りする、といったアイデアだ。アップルの「iTunesストア」が音楽コンテンツを1曲単位で販売するように「雑誌を記事ごとに、書籍も内容によっては『章』ごとにばら売りする、というのもひとつの手かもしれません」。