民主と自民のチキンレース
また、政府には政府預金その他の資金手当をしようと思えばできるものもある。特例公債法が成立しないなら、国民生活にできるだけ影響のないように、あらゆる手を講じるのが政府の役目だろう。そうした努力もせずに、国民を恫喝するかのように、早めのデッドライン(11月)を財務省が設定するのはおかしいだろう。
政治家も財務省の決めたデッドラインで議論しているのは情けない。民主党は、11月が迫っているから、10月29日に臨時国会を招集するので早く特例公債法を成立させてくれと一点張りだ。自民・公明党は、野田総理は谷垣総理に「近いうち解散」を約束したのだから、11月が特例公債法のデッドラインなら、早く解散を約束せよという。
民主党と自民・公明党は、財務省の敷いたレールの上でチキンレースをしている。ここは、政治家が冷静にならないと。日本は本当に財政の壁で落ちてしまう。
民主党のほうから簡単にいえることは、財務省の独尊的な解釈を政府として改め、資金繰り債20兆円を発行して当面凌ぐことだ。
自民・公明党のほうからいえることは、今の特例公債法を二分割して、38兆円の調達を20兆円と18兆円に分け、とりあえず20兆円分の特例公債を発行できるように特例公債法の議員修正・立法をすることだ。残りの18兆円は後で考えるのだが、それまでに解散して政権党は残りの特例公債法案を必ず成立させるとすれば、解散の予告になって自民・公明党としても満足だろう。
いずれにしても、財務省のレールではすぐ先に財政の壁で、経済は底に落ちてしまう。政治主導すべきは今であり、民主と自民・公明のどちらが財務省の手の上から脱することができるかどうか、政治力の試金石だ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。