独立行政法人、日本政府観光局によると、2012年9月の訪日中国人旅行者数(推計値)は、東日本大震災前の10年同月比で10.1%減の12万3500人に落ち込んだ。
日本政府による尖閣諸島の国有化を機に生じた日中両国の関係悪化が大きく影響した。あれだけの騒動の割には1割の減少とは思いのほか"健闘"にも見えるが、今年7月には20万3800人と月ベースで初めて20万人を超えて過去最多を記録、8月も19万3800人と8月としては過去最高を更新しただけに、今後の影響拡大が懸念される。
当初は「過去最高」が期待されていた
訪日中国人がマイナスに転じたのは4月(0.8%減の14万9542人)以来で5か月ぶり。昨年3月の大震災に伴う東京電力福島原発の事故をきっかけに、日本を訪れる外国人は激減した。隣国の韓国では日本の情報が詳細に伝えられていることから、原発事故による放射能汚染への懸念が今も消えておらず、円高・ウォン安が拍車をかける形で訪日旅行者は回復していない。
しかし、中国は経済発展に伴い、大震災直前まで海外旅行者は膨らんでおり、昨年秋ごろから訪日旅行も回復に向かった。今年は夏前から好調に推移し、日中国交正常化40周年を迎える記念の年を迎えることもあって、「年間ベースで過去最高を更新するだろう」(旅行会社幹部)との見方は強かった。特に、中国の建国記念日に当たる10月1日の「国慶節」前後は大型連休の旅行シーズンに入ることから、今秋は訪日中国人が急増すると見込まれていた。
しかし、尖閣国有化の動きが浮上した8月ごろから中国内では反日感情が高まり、9月に入ると日本ツアーの予約キャンセルが続出。日本航空によると、10月初旬現在で、9~11月の予約キャンセルは約1万9500席に膨らんだ。需要減に対応するため、同社は成田―北京線など中国3路線の減便を11月中旬まで実施する。
本格回復までに1年以上かかる
中国人旅行者の宿泊が多い、富士山のふもとにある山梨県のリゾートホテルでは、中国人のキャンセルが数千人規模に上る。従業員は「震災や原発事故の影響が落ち着いてきた中で、観光シーズンを迎える絶好の時期だったのに……」と肩を落とす。
こうした現状が9月の訪日数に表れたわけで、「むしろ10月以降の方が厳しいのではないか」(旅行関係者)との悲観的な声は少なくない。東京・銀座の百貨店では「国慶節以降、急に中国人が減った」という。運輸・流通関係者の中では「中国人が本格的に回復するのは早くても1年かかるのではないか」など、影響が長期化するとの見方は支配的だ。
日本政府は7月に決定した「日本再生戦略」で、2020年までに訪日外国人旅行者を2500万人に引き上げるとの方針を掲げた。現在、国別では韓国人の訪日数が最も多いが、「人口の多い中国人の力は絶大」(国土交通省)とし、目標達成のために中国頼みの姿勢は特に強い。日中関係の悪化に伴う訪日中国人の不振が長引けば、再生戦略自体に影響が出るのは避けられない。