2012年のプロ野球ドラフト会議の目玉となっていた岩手・花巻東高校の大谷翔平投手が、自らの口で米大リーグ挑戦を明らかにした。
高校野球史上最速となる160キロの剛速球を投げる超高校級の投手だが、米国に渡ればマイナーリーグでの下積みが確実視される。晴れてメジャーのマウンドに立てるまで、5年はかかりそうだ。
「体力的に優れており、世界でもトップアスリートになるだろう」
大谷投手は2012年10月21日、父親を伴って会見した。プロ野球とメジャーどちらを選ぶかで心境が揺れ動いたが、最終的には「入学当初からの夢だった」大リーグに挑む決意を表明したのだ。両親や周囲からは国内でのプレーを勧められたが、「厳しい中で自分を磨きたい」と自分の意志を貫き、決断した。
既にロサンゼルス・ドジャースやボストン・レッドソックス、テキサス・レンジャースが獲得に名乗りを上げているという。ドジャースのホワイトGM補佐は報道陣に、「体力的に優れており、世界でもトップアスリートになるだろう」と絶賛していた。
日本の12球団は、10月25日に開かれるドラフト会議で大谷投手を指名することは可能だ。指名権を獲得したチームは2013年3月31日まで交渉できるが、4月1日以降は拘束できない。実は交渉権が有効な期間でも、米球界は日本の野球協約に縛られないため、入団契約の締結を強行できなくはないようだ。
過去にもプロ野球未経験で米国に渡った選手はいるが、大谷投手のようにドラフト1位指名が確実視されるレベルでは例がない。米球界入りする場合は、どのような手順になるのか。
大リーグにも、新人選手を獲得するためのドラフト制度がある。公式ウェブサイトを見ると、対象となるのは米国かカナダ在住で、過去にメジャーやマイナー契約を取り交わしたことのない選手となっている。プエルトリコなどの米国領出身者や、外国人で米国の高校や大学に在籍する場合もドラフトの資格が与えられる。ところが大谷投手の場合は、どれも該当しない。いわゆる「ドラフト外」として、米球団と自由に交渉できる立場にあるのだ。
ただこれまで、日本のプロ野球を経ずにマイナー契約を結び、後にメジャーに昇格したケースはごくまれだ。大谷投手に比較的似ているのが、シアトル・マリナーズなどで活躍したマック鈴木投手。日本の高校を中退した後に米国に渡り、1993年にマイナー契約、96年にメジャーデビューを果たしている。現在レッドソックスで活躍する田沢純一投手の場合は、社会人野球を経て「メジャー契約」の形で入団した。
三振を取れる変化球の習得が必須
日本のプロ野球では、高卒での入団1年目から活躍するスーパールーキーがこれまでにも登場した。だが米球界の場合はマイナーレベルのすそ野が各段に広く、大谷投手のような逸材でもすぐにメジャーで投げるのは考えにくいようだ。大リーグ評論家の福島良一氏はツイッターで「マイナーでの厳しい生存競争に勝ち、5年後メジャーで投げる日が待ち遠しい」とつづっている。なぜ「5年後」としたのか、同氏は2012年10月22日放送の「とくダネ!」(フジテレビ系)で明かしている。
大谷投手が契約した場合、マイナーの最下層にあたるルーキーリーグからスタートし、以後は実績に応じて1A、2A、3Aと上がり、高い評価を得られればメジャー契約に至る。各段階で1年はかかるため、福島氏は「5年」という年数を見積もったようだ。
スポーツジャーナリストの菅谷齊氏も同様の考えだ。J-CASTニュースの取材に対して、「米球界は日本と比べて選手層が違う。中南米出身者を筆頭に、150キロ台の速球投手はゴロゴロいます」と、順調に成長してもメジャー昇格は数年先とみる。米国では有望株の投手に対し、まず球のスピードを重視し、段階を追ってコントロールをつける指導をすると話す。大谷投手が米球団のスカウトの目にとまったのも、最速160キロの剛腕が魅力だったからだろう。後はカーブやチェンジアップ、スライダーといった変化球を「三振が取れる球」となるように磨きをかけられるかが成功へのカギだと菅谷氏。
一方で、「マイナー修行」の意外とも思える利点を挙げた。仮に日本の球団に入ったとしたら、岩手育ちで野球漬けの日々を送ってきた大谷投手にとって「都会の『誘惑』が多いかもしれません」。一方でマイナーのルーキーリーグや1Aなどは米国の小さな街に本拠地を構えている。高校生活同様、野球に集中できる環境に引き続き身を置くことが、メジャーへの階段を駆け上がる近道になるかもしれない。