欧州の債務・金融危機に乗じる形で、邦銀が国際的な存在感を高めている。
欧米勢が不良債権に苦しむのを尻目に、財務的に相対的に健全になっていることや円高を背景に、海外で融資を増やし、M&A(企業の買収・合併)でも攻勢を強めているのだ。邦銀復活は本物なのか。
アジアの資金需要に積極的に応じる
3メガバンクは海外向け融資を伸ばしている。邦銀が主幹事になった海外向け融資は2012年上半期(1~6月)に16.1兆円に達し、リーマンショック後の2009年上半期の5.3兆円から3倍に増えた。このため、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、みずほFG、三井住友FGの3グループ合計の海外向け融資残高は12年6月末時点で40.8兆円と、2009年3月末から1兆円近い増加だ。
中身をみると、アジアの資金需要に積極的に応じているのが分かる。三菱UFJは、みずほなどと組んで東洋ゴム工業のマレーシア現地法人に2億ドルの融資をまとめた。みずほも、三井住友などとともに、インド政府系の石油や電力会社に2.5億~3憶ドル規模の融資といった具合だ。
M&Aも活発。最近、報道された主なものだけで、三菱UFJグループのリース会社が米航空機リース大手のジャクソン・スクエア・エビエーションを約1000億円で買収(9月)▽みずほが独州立銀行からブラジルの中堅銀行買収(6月)▽三井住友が英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の航空機リース部門を共同買収(1月)などだ。
三菱UFJ、三井住友が上から3番目のAa3格付け
こうした邦銀の攻勢の原動力が「高格付け」だ。バブル崩壊後の不良債権処理の遅れなどで財務を悪化させた邦銀も、公的資金注入や3メガバンク体制への再編などを経て体質を健全化させた一方、海外勢はリーマンショック以降の米住宅バブル崩壊と欧州の財政・金融危機でバランスシートを傷めた。このため、格付け会社ムーディーズによる格付けは、三菱UFJ、三井住友が上から3番目のAa3、みずほもその一つ下のA1なのに対し、欧米勢は6月にほぼ一斉に格下げされ、JPモルガンとHSBCがAa3、クレディ・スイスがA1に踏みとどまっているものの、ドイツ銀、ゴールドマンサックス、BNPパリバ、UBSがA2、バンカメとシティはA3になっている。
ただ、こうした「強さ」も、盤石とは言えそうもない。国内の資金需要が依然として上向かないため、少々海外向けを増やしても、追いつかない。12年6月末の日本の貸出残高は395兆円で、ここ数年、400兆円前後での低迷が続く。貸し出しがパッとしない中で、国債運用頼みの構造もすっかり定着している。
保有資産に占める国債の比率は2017年に30%
国際通貨基金(IMF)が東京で開いた総会の中で10日に発表した国際金融安定性報告書(GFSR)は邦銀の国債保有残高にわざわざ言及し、銀行の保有資産に占める国債の比率は2011年で24%になり、このままでは5年後の2017年には30%まで高まるとの見通しも明らかにした。政府の財政赤字の拡大に伴い大量に発行される国債を、民間の資金需要低迷で運用に困った銀行が引き受けているわけだ。こうした銀行と政府の相互依存の強まりについてGFSRは、金利の急上昇による銀行の資産悪化への懸念を指摘している。
10年もの国債の場合、金利が1%余り上昇すれば、「邦銀全体で数十兆円、メガバンクは数千億円単位の損失を抱えることになる」(エコノミスト)という試算もある。
海外での攻勢は大いに結構だが、足元の「国債偏重の運用」への目配りも怠れない。