投資した約65億円の大半をAIJ投資顧問で失った長野県建設業厚生年金基金が、AIJとは別に、「未公開株」への投資でも損失を出していることがわかった。
証券取引等監視委員会がAIJ事件を調査するなかで発覚したとされるが、運用の「素人」が「未公開株」という超ハイリスクの金融商品への投資をしていた。
横領容疑の事務局長が「未公開株」運用を指示
未公開株への投資は、基金の運用担当者だった元事務局長が主導。自身が親密だった投資会社、アール・ビーインベストメント・アンド・コンサルティングと契約を結んだうえでユナイテッド投信投資顧問とスタッツインベストメントマネジメントに資金運用を委託していた。
ユナイテッド投信とスタッツインベストメントは、投資会社が選んだ未公開株に資金を振り向けていたが、投資先にはその後経営内容が悪化したり破たんしたりした企業があり、約70億円の投資額は20億円程度に目減りしてしまったとされる。
今回の損失は、AIJのように、当初から基金を騙して損失を与えたわけではない。しかし、金融庁は基金の資金運用を受託していたユナイテッド投信とスタッツインベストメントに1~2か月の業務停止命令を出す方向で検討している。
未公開株への投資が適切かどうかチェックする義務を、両社が怠ったことが金融商品取引法に違反するとされる。
同様に、基金に資金の運用・管理を任されていたソシエテジェネラル信託銀行にも信託業法上の管理義務を怠っていたとして行政処分される方向だ。
そもそも、多額の損失を被った責任はAIJや未公開株への投資を指示した元事務局長にあると思われる。運用とは別に、23億円もの基金の資金を横領したことが発覚し、海外に逃亡したとして捜査当局に追われている。
親密とされ、未公開株への投資を指示したとされる投資会社も、年1回の「ファンドモニタリング調査票等」の提出がないことを理由に、関東財務局が2012年8月末時点で「問題があると認められた届出業者」にリストアップしている。
いずれにしても、「問題がある者」同士が結託して基金の資金を毀損させたようだ。長野県の基金は「現在金融庁が調査している最中なので、こちらからは一切コメントできません」と話している。
年金基金は本来「プロ」の投資家
一般的に、長野県建設業厚生年金基金のような総合型の厚生年金基金は、退職者への年金支払額の増加や新規加入者の減少、運用成績の低迷で、年金資産の積み立て不足が深刻な悩みになっている。
そのため、「より有利な、儲かる運用」に目が向きがちだ。AIJも「大きな利益をあげる」と評判になっていた。
経済アナリストの小田切尚登氏は「未公開株のようなハイリターンで目減りした資産の穴埋めを狙ったのではないか」とみているが、そのこと自体は法令違反ではないという。
ただ、問題がないわけではない。小田切氏はあくまで一般論としながら、「投資会社は未公開株に投資するリスクについて、きちんと説明しているはずです。年金基金は『投資のプロ』ですから、基金の運用担当者が『素人だった』は本来通用しません」と、年金基金の運用担当者の投資知識のなさを指摘する。
一方で行政にも、「おそらく、今回の件は運用する側は『もっとプロである』ということで行政処分が下るのでしょうが、(処分を)厳しくするのであれば、未公開株でも何がよくて何が悪いのか前もって判断できる材料を提供しないと、運用する側は(損失を出すと処分されるようで)怖くて投資できなくなります」と、注文をつける。