全国農業協同組合中央会(JA全中)が「将来的な脱原発に向けた取り組みを実践する」などとする決議を2012年10月11日、東京都内で開いたJA全国大会で行った。
自民党の有力な支持基盤とされてきたJAグループが脱原発を表明するのは初めて。東京電力の原発事故後も原発維持を主張する経団連や日本商工会議所などの財界とは一線を画した経済界の動きとして注目される。
「安全な農作物を将来も提供することが使命」
JAグループは全国の農家や農協関連施設で太陽光、バイオマス、小水力発電など再生可能エネルギーの普及に取り組むほか、政府・与党に早期の脱原発に向けた政策の実現を求める。全国に709農協、組合員数949万人を擁するJAグループが脱原発を目指すことは、次期総選挙で政権復帰が有力視される自民党のエネルギー政策にも影響を与えるのは必至だ。
決議は「東日本大震災に伴う原発事故の教訓を踏まえ、将来的な脱原発を目指す」とし、JAグループとして再生可能エネルギーの活用と、節電・節水などの省エネルギーに組合員、地域住民が取り組む姿勢を明確にした。
JA全中の万歳章会長は全国大会で「安全な農産物を将来にわたって消費者に提供することはJAの使命だ。東日本大震災に伴う原発事故の教訓を踏まえると、JAグループとして将来的な脱原発を目指すべきと考える」と述べた。万歳会長は大会前の記者会見で「原発事故の放射能汚染は後始末ができない。こういうリスクを踏まえてまで原発をやる必要があるのか」と、原発依存のエネルギー政策に疑問を投げかけた。
全農は太陽光発電に参入
JAグループはすでに脱原発に向けた取り組みを実践している。全国農業協同組合連合会(JA全農)と三菱商事が全国のJA関連施設や農家の屋根にソーラーパネルを設置し、電力会社に電力を売電することで、収益を上げる太陽光発電事業に参入することを表明。近く共同出資で運営会社を設立する方針だ。2014年度に最大出力20万キロワットを目指しており、国内の太陽光発電としてはソフトバンク子会社の「SBエナジー」の計画(20万キロワット以上)と並び、国内最大規模となる見込みだ。
全国大会には民主、自民はじめ与野党の代表が来賓として参加し、国政選挙となれば巨大集票マシーンとなるJAグループとの親密ぶりをアピールした。共産党の志位和夫委員長は「原発ゼロの実現に向け、力を合わせて取り組みたい」、社民党の福島瑞穂党首は「JAの脱原発宣言はうれしい」などと、脱原発方針にエールを送った。他の少数野党の代表も脱原発を推進する考えを示したが、野田佳彦首相、自民党の安倍晋三総裁は、原発をはじめとするエネルギー政策について明確には言及しなかった。
次期解散・総選挙の結果しだいでは民主党政権の脱原発依存の政策が変わる可能性があることについて、万歳会長は記者会見で「ドイツ、ベルギー、イタリアなどで脱原発の世界的な流れができている。政治家たるもの、リスク面を考えると社会的に転換が必要との考えを持っていると思う。社会の方向は脱原発になるだろうと思っている」と述べ、民主、自民両党を牽制する発言をしている。JAグループが脱原発を明確にしたことで、次期総選挙で各党がマニフェストに原発をどう位置づけるかが注目される。