「大学の名に傷付く」ねつ造見逃された可能性も
米科学誌「Science」が運営するサイト「ScienceInsider」によると、これまではドイツの麻酔科医、ヨアヒム・ボルト氏の約90編が、1人の著者の論文撤回数の最高記録と思われていた。藤井氏の172編がすべて撤回されると、その記録を大幅に塗り替えたことになり、なんとも不名誉な「世界記録」を樹立してしまうことになる。
ここまで大規模な論文ねつ造を、なぜ大学は見抜けなかったのだろうか。特別委員会は調査結果の資料に、「次々と論文を発表すると同僚に疑われるため、『データは前に勤務していた病院またはアルバイト先の病院でとったもの』であるかのように装っていた」「共著者に他施設の医師を入れることにより、実施施設が複数にまたがっているかのように装った」というやり方が長期間、大量の論文ねつ造の発覚を免れるのに有効だったとしている。それにしても、チェック体制が甘いのではないかという疑念は晴れない。
ある大学関係者に話を聞いたところ、ねつ造は見抜かれていなかったわけではなく、気付いていても見逃されていたのではないかという。ねつ造が明るみになると著者だけでなく、大学の名前も傷付くため、なるべく隠そうとするケースが多いのでは、と見ている。また、世界には学術誌が大量に存在し、簡単に論文を載せられるものもあるという。特に医学は多くの論文を書くことが評価につながるため、そうした海外の学術誌に論文を掲載したということで箔をつけようと思う学者もいるらしい。もちろん論文のねつ造はハイリスクだが、これだけ多くの学術誌があれば見つからないかもしれないという気持ちと、日本は学問の不正に対して甘さがあるため、やってしまう人も少なくないのだろうと嘆いていた。