「iPS細胞を使った世界初の治療を行った」のはウソではないか、という疑惑で大騒ぎの昨今だが、これに先行して2012年6月、日本の医学会で「トンデモねつ造」が明らかになっていた。
なんと200編近くの論文をねつ造したという医師がいたのだ。ここまで大規模なねつ造は世界的にも例を見ないが、なぜこんなことが可能だったのだろうか。
東邦大学の諭旨退職処分を受けていた
論文をねつ造したとされるのは麻酔科医師の藤井善隆氏(52)だ。藤井氏は東海大学医学部医学科を卒業後、東京医科歯科大学大学院の医学研究科に入学。卒業後は取手協同病院と牛久愛和総合病院で勤務したほか、東京医科歯科大学医学部麻酔蘇生科助手、筑波大学麻酔科講師を歴任し、海外の学術誌にもたびたび論文が取り上げられた。12年2月までは東邦大学医学部第一麻酔科准教授を勤めていた。
公益社団法人日本麻酔科学会(JSA)の「藤井善隆氏論文調査特別委員会」が2012年6月29日に発表した資料によると、11年7月、海外ジャーナルから東邦大学あてに藤井氏の論文のねつ造疑惑の調査依頼があった。調査の結果、藤井氏が牛久愛和総合病院で行ったとされる8論文の研究について、倫理委員会の承認を得ずに実施したことがわかり、東邦大学は藤井氏を12年2月29日付で諭旨退職処分とした。
その後、海外の複数の麻酔科関連ジャーナルが、藤井氏が関係する168編の論文について統計学的に分析した結果、データの正しさに疑問が生じたなどと発表した。