遠隔操作ウイルスでなりすましの犯行予告が行われた事件は、少なくとも4人のえん罪を生み出した疑いが強くなった。しかし、うち2人は、「犯行」を自白してしまっていたというのだ。
「警察・検察をはめてやりたかった」
「醜態をさらさせたかったという動機が100%」
世間を騒がせた数々の犯行予告について、TBSなどに送り付けられたメールには、こんな言葉がつづられていた。
4人のうち2人は、後に犯行予告関与を認める
この差出人不明のメールは、真犯人による犯行声明の可能性が高いらしい。TBSが2012年10月15日に放送したところによると、犯人しか知り得ない情報が含まれていたからだ。
メールでは、4人が威力業務妨害の疑いなどで逮捕された犯行予告6件は、「私が真犯人です」とした。告白したのは、タイミングを見て、逮捕された人たちを助けるつもりだったからだとしている。報道によると、計十数件の犯行予告について、自らの関与をほのめかしているという。
4人については、検察も、なりすましの可能性が分かって釈放するなどしている。しかし、4人とも一度は容疑を否認しているものの、うち2人は、後に関与を認める供述をしていたことが分かった。
悠仁さまが通う幼稚園などをターゲットにした襲撃予告メールで逮捕された福岡市内の男性(28)は、報道によると、当初は「同居の女性がやった」と容疑を否認していた。しかし、その後は、「就職活動で不採用になったのでむしゃくしゃしてやった」などと容疑を認めた。
また、横浜市のホームページに小学校を襲撃すると書き込んだとして逮捕された明治大男子学生(19)は、「何もやっていない。不当逮捕だ」と否認していたが、その後に供述を一転させた。「楽しそうな小学生を見て、困らせてやろうと思った」などと自供したという。この学生の場合は、すでに保護観察処分になっている。
「警察や検察の追及がそれだけ厳しかった」
警察や検察は、IPアドレスという「証拠」をちらつかせ、4人に自白を迫っていたようだ。報道によると、最後まで否認して釈放されたアニメ演出家男性(43)は、「認めたら罪が軽くなる」と持ちかけられたという。
「自白」した2人も、こうした持ちかけなどから、気持ちがぐらついてしまったのだろうか。
痴漢えん罪などの著書がある井上薫弁護士は、その心理についてこうみる。
「威力業務妨害罪で正式起訴になれば、重くて懲役3年と、刑は甘くありません。前科がないと執行猶予が付きますが、懲役1年の可能性もあり、怖いはずです。そう簡単に自白しないと思いますが、警察や検察の追及がそれだけ厳しかったということでしょう。それで、何かよく分からないものの、パソコンに残っていて逃れようがない、という気持ちになってしまったのだと思います」
2人が具体的に動機を供述したことについては、こう言う。
「取り調べでは、泣いたり騒いだりして、少しずつしか話したりしません。それを、警察などがもっともらしい作文に作り上げるわけです。裁判官に『おかしい』と言われないためにですよ」
今回の事件は、パソコンを使っているだれもが陥る恐れがある点で、かなり深刻だと、井上弁護士は指摘する。
「警察や検察は知識がなく、裁判官も疎いとすれば、あちこちでえん罪被害が出ているのでは。それを防ぐには、警察などが容疑者の弁解をよく聞くことですよ。客観的な証拠からではなく、はなからウソを言っているとしか見ない傾向がありますからね。最初から犯人と決めつけるのではなく、ネット上の特殊な犯罪ですので、慎重に捜査するしかないと思います」